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「りんごオーナー」年に一度の収穫祭!家族でもぐ、りんごのおいしさ
りんごオーナー制
「りんごオーナー制」とは?生産者と消費者つなぐ架け橋となって20年
長野県は青森県に次いで全国第2位の生産量を誇る、りんごの産地です。中でも伊那谷は、豊富な日照時間、昼夜の寒暖差を活かした栽培が盛んに行われています。オーナー制は20年程前から始まった取組みで、消費者がりんごの木を丸ごと借り受けてオーナーになり、収穫期にその木の収穫分を全てもらうことができるという仕組み。木1本分のりんごが手に入るだけでなく、実際に園訪れ、収穫の喜びを実体験することができます。

生産者と消費者の交流にもなっているオーナー制の魅力を探るため、11月21日(土)、収穫祭中だという伊那市のりんご農家・重盛正(しげもりただし)さんのオーナー園を訪ねました。
重盛正さんのオーナー園
20年来のおつきあい。収穫以上の喜びも
朝10時。清々しい秋晴れで、絶好の収穫日和です。重盛さんの園にある広い駐車スペースには、既に何台もの車が停まっていました。駐車スペースの奥に受付が設けられており、オーナーの皆さんはそこで名前を確認し、名札がぶら下がったオーナー木へ向かいます。

伊那市のりんごオーナー制は、都市との交流を図り市内のりんご栽培をさらに盛り上げるため、1997年にJA上伊那と行政が協働して始まりました。「オーナーになって20年になる人も少なくないよ」と重盛さん。静岡県や愛知県など中京圏在住者が多いのだとか。顔なじみとなった方々とあいさつを交わしながら、そう教えてくれました。
「収穫祭」受付。2020年は感染症対策をしっかりと
もぎたてのおいしさは感動もの!コクある甘味が口いっぱいに
園には200本以上の木がずらりと植えられています。
「こんな風に葉が一気に色付くことはあまりない。きっと今年の気候のせいかな」「確かに昨年はこんなに色付いてなかった気がするなぁ」。重盛さんとオーナーさんのそんな会話から、天候に左右される農業の一端が垣間見えます。

この日収穫に訪れていたご家族に同行させてもらいました。オーナー木から早速りんごをもぎ取り、持参したナイフで切り分け試食を始めるオーナーさん。「食べてみて」と、私にもその場で切って手渡してくれました。口に入れると、新鮮な瑞々しさとジューシーな甘さ、爽やかな香りが口いっぱいに! 蜜たっぷりですが、ただ甘いだけでなく酸味もしっかりとのり、奥深いコクも感じられます。シャキッとした歯ざわりも抜群。「おいしいです!」と言うと、「そうでしょう」とオーナーさんもにっこり。

重盛さんの園のオーナー木は、全て「ふじ」。代表格の品種なので多くの人が食べたことがあるかと思いますが、このフレッシュなおいしさはもぎたてでしか味わえません。初めてもぎたてを食べた人の多くが、「こんなりんご食べたことない!」と口をそろえるといいます。保存性も群を抜いて優秀な品種なので、木1本分のりんごを持ち帰ったとしても涼しい場所に置いておけば、長く楽しむことができるそうです。

お子さんたちもまずは丸かじり。腹ごしらえをしてから、いよいよ収穫開始です!
もぎたてを丸かじり!こんな贅沢もオーナーならでは
両手いっぱい収穫!思わず笑顔に
収穫は、簡単そうでいて実はコツが必要です。ヘタと実の間に指をひっかけ、ヘタが取れないようにそっとりんごを傾け、持ち上げるようにしてもぎ取ります。初めてであればそんなレクチャーも受けられますが、オーナーの多くがリピーター。レクチャーなしで、どんどんともぎ取っていきます。
両手いっぱいに収穫
「今年で3年目」だというお子さんたちも、手慣れた手つきで収穫。高い位置に実ったものは、ハシゴをかけて収穫します。オーナーの多くが家族連れ。「年に1回、皆で集まってりんご狩りをするのが恒例になっている」という人も多いそうです。収穫の喜びを感じながら、一家団らんのひと時を過ごします。

私もりんご狩りを体験させてもらいました。「ヘタが取れてしまうと保存性が低くなってしまうので要注意」とのこと。しかし、この日がりんご狩り2回目の私。傾けてもうまくもぎ取れず、結局ヘタごと取れてしまう始末……。最初は恐々と作業を進めていましたが、コツがつかめてくるとだんだんとテンポよく収穫できるように。五感をフルに使って収穫の喜びと楽しさを実感します。
筆者も収穫を体験。最初はうまくいきませんでしたが、だんだん楽しくなってきました
木1本につき100玉以上の実が付きますが、慣れてくればおおよそ2、3時間程度で収穫を終えることができます。重盛さんの園の場合は、1本の木につき120玉保障で20,000円(※条件、玉保障数によって料金は異なります)。
収穫したてのりんごを箱詰め。郵送する人は緩衝材が必須です
もぎ取ったりんごは、実同士がぶつかって打撲痕ができないよう、そっと箱に詰めます。持参した箱に詰める人がほとんどですが、その場で資材を購入することも可能です。発送も受け付けているため、親戚や友人に直送する人も。モールド(専用の緩衝材)などの発送用資材も購入可能です。

受付では、もぎたてだけでなく、ジュースやジャムなど特製の加工品のほか、鳥が少しつついてしまったものやつるわれ(ヘタの部分が割れてしまった状態)のものを特価価格で販売しています。「加工品販売も好評で、楽しみのひとつになっているみたい」と重盛さん。お土産に買い求める人が多いそうです。
「収穫祭」限定のりんごの特価販売も
年2回の訪問機会。「また来年」が恒例に
オーナーが園を訪れるのは年2回。まず7月最後の日曜日に行われる「園開き」で、自身のオーナー木を決めます。それからは園主の方々にお任せし、11月20日前後の土日の「収穫祭」で、収穫します(※地域によって訪問回数、時期は異なる場合があります)。収穫祭に来られなくなってしまった場合は、重盛さんが丁寧に収穫、保障分のりんごを送ってくれます。7月にはまだゴルフボールにも満たない小さな実が、11月には手のひらいっぱいの大きさに成長している姿を見ると、愛着も増します。
自分の名前が掲げられた木を見ると、さらに愛着がわくもの(※写真はイメージです)
実は、重盛さんの園がある地区のオーナー制は、現在リピーターで全て埋まってしまっており、キャンセル待ち状態。新規の登録は受け付けていません。しかも2020年はコロナ禍で、JA上伊那が窓口となって行うオーナー制は受入自体が中止に。しかし20年来の付き合いがあるオーナーを全て断るのは忍びないと、感染症対策を徹底、本数を限定し、重盛さん個人で受入を実施したそうです。そんな事情もあり、今年の収穫の喜びはひとしおでした。

「だんだんと農家も木も高齢化してきて、20年前と比べれば受け入れできる数も減ってしまいました。それでも、続けられる農家で頑張っています」(重盛さん)。キャンセル待ち状態なのも、受入できる生産者が減ってしまっていることが要因なのだといいます。
「それでも、毎年来てくれる人がいるというのはうれしいもの。自分のりんごではないと思うと、より一層責任感を感じます。もっと受入農家が増えてくれたらいいな」(重盛さん)
園主の重盛正さん
「また来年!」

そう言って手を振り合うオーナーさんと重盛さんの姿に、りんごがつなぐ人と人との縁を感じます。オーナー制は、新鮮なりんごが手に入るだけでなく、伊那谷に暮らす人の温かさに触れられるのも魅力のひとつ。第2のふるさとができたような気持ちになれます。
【問い合わせ】
◎JA上伊那 中部営農センター
〒399-4511 長野県上伊那郡南箕輪村8142-1
TEL:0265-96-7925
◎2023年度に料金の改定が行われましたので、詳細はお問い合せ下さい。

〈その他のりんごオーナー制窓口〉
◎辰野町
辰野町役場庁舎1F産業振興課農政係
辰野町りんごの樹オーナー運営協議会
〒399-0493 長野県上伊那郡辰野町中央1番地
TEL:0266-41-1111(内線:2146)

◎このほか、生産者が独自でりんごオーナー制を行っている園もあります。
◎料金は、りんごの種類などにより異なります。詳細は、お問合わせください。

*この記事は、令和3年1月に公開をし、令和5年8月に一部見直しをしたものです。
みんなの体験記ライター
投稿者柳澤
年代30代
趣味茶道
自己紹介大学進学で伊那谷へ。暮らし初めて12年目。伊那谷で暮らす人や文化、食と農などの魅力を発信できればと思います。