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速度が変わると、世界が変わる。サイクリングで「再発見」した地域と自分
grav bicycle station
四季の移り変わり、風の心地良さ、お日さまの暖かさ。

日々忙しくしていると、いつも当たり前のように感じられるはずの小さな幸せに、気づけなくなることがあります。

そんなときは、ちょっと日常から離れて自分の心地よいペースを取り戻す、ショートトリップが必要かもしれません。気軽にできるショートトリップの手段として、数あるアクティビティの中でも実はサイクリングはうってつけ。

本記事では、サイクリング初心者の筆者が、実際に辰野町のサイクリングツアーに参加して感じた魅力や、自分の中で起きた変化についてお届けします。

ツアーに参加して見えてきたのは、「ガイド付きサイクリングツアー」ならではの魅力。地域を深く知るガイドと共に自転車で町をめぐるからこそ、普通に観光するだけでは見えてこない地域の奥深い歴史や、その町のポテンシャルに気づけるということです。この記事自体が、サイクリングツアーというアクティビティの魅力を再発見する一助になれば幸いです。
世界一周も経験した、自転車冒険家によるガイドツアー
今回参加したのは、「小野宿ぐるりんぐライドツアー」。このツアーは、初期中山道、歴史深い旧宿場町の小野宿を巡る初心者向けのサイクリングツアーです。ガイドをしてくれるのは、自転車で世界一周を成し遂げた自転車冒険家で、伊那谷や諏訪を中心にサイクルツーリズムの普及にも取り組む、小口良平さん。

ライドツアーのスタートは、2020年6月に辰野町にオープンした「grav bicycle station」から。親しみを込めて「グラバイ」と呼ばれるこの施設は、ツアーガイドの小口さんが代表を務めるサイクリングの拠点施設。最新式のeバイクや、マウンテンバイクなどを借りることができるほか、サイクリングに欠かせないドリンク類や、木曽のセレクトショップ「en-shouten(えんしょうてん)」の日用雑貨も販売しています。



「バイクはイスが高いので傾けながら乗ると乗りやすいですよ」
グラバイの前でバイクの操作方法や、ツアーの流れの説明を受けたのち、安全のために準備体操。
優しく入念にレクチャーしてくれるので、初心者にも安心です。


9時30分。いよいよライドツアーの出発時間になりました。

小口良平さんが参加者を先導し、私は隊列の最後尾あたりからのスタート。乗っているのは最新式のeバイク。電動アシストもあり、漕いでみると想像以上に軽く、ぐいぐいと前に進んでいきます。これならサイクリング初心者でも体力が持ちそう。心地よい風が体にあたって気持ちいいです。
小口さんと共にツアーガイドをしてくれるアシスタントの方
しばらく走ると、あっという間に最初の休憩ポイントに到着。「徳本水(とくほんすい)」と呼ばれる、地元住民にも人気の湧水スポットで水分補給。前半ということもあり、やや興奮気味だったせいか、「もっと早く進みたい」と少し焦る気持ちを抑えて、しばし休憩します。


休憩を終え、サイクリングの隊列は国道の脇に伸びる、宿場町の面影を残す旧伊那街道に入っていきます。


「こんなに静かな裏道があったんだ」


大型トラックや自動車がビュンビュンと走り去る国道と違って、旧伊那街道にはほとんど車が通りません。きちんと一列に並んでいた隊列も、だんだんばらけて、それぞれのペースで走っていきます。「もっと速く」と急いていた私の心も、だんだんと落ち着いてきました。

道端にひっそりとたたずむ、古めかしい石碑に目を奪われたり、色づき始めていた紅葉を写真で撮ってみたり、眠っていた好奇心が顔を出し、道草をする余裕が生まれていました。


いつも通っている何気ない景色の中に、小さな魅力があふれていることに気がつきます。
いつも目にしていたはずなのに気付かなかった景色が見えてきます
歴史を知ることで見えてくる、地域の面白さ
サイクリングはすすみ、いよいよ小野宿へ。小野宿は辰野町と塩尻市にまたがる初期中山道、三州街道の宿場町。現在も築数百年を超える大きなお屋敷がそこかしこに残り、銘酒の「夜明け前」で有名な小野酒造もここに酒蔵を構えます。そんな小野宿には、諏訪大社に次ぐ、信濃国二之宮の矢彦神社・小野神社があり、参拝客も多く訪れるとか。ツアーの一行は両神社でバイクを停めて、ここからは徒歩で境内を散策します。
小野神社の前を横切るツアー参加者
鳥居をくぐると、立派な神社が2つ隣り合っているのが目に入ります。他の神社ではみられない珍しい光景です。

「なぜ矢彦神社・小野神社という2つの神社が隣り合っているかわかりますか?」と小口さん。
辰野側に位置する矢彦神社。この右側に塩尻側の小野神社があります
実は小野宿は伊那、諏訪、松本という3つの地域の境目にある要所。それゆえに古くから領土紛争が絶えない地域で、戦国時代には松本城主と飯田城主の取り合いに。そこに豊臣秀吉が仲裁に入り、今も矢彦神社は辰野町、小野神社は塩尻市という区分けがされるようになったのだとか。そういった歴史的背景もあり、小野にある小学校と中学校は「両小野学園」と呼ばれ、辰野町と塩尻市の双方の生徒が通えるようなバランスの取れた仕組みになっています。

「矢彦神社と小野神社が境目にあることを表している景色があります」

そう言って案内してくれたのは境内の裏側。よく見ると境内を囲む壁が木材と石材、2つの異なる素材で作られています。

「矢彦神社は辰野町、小野神社は塩尻市、2つの異なる自治体で管理されているので、境内の壁のデザインも全然違うんですよ。なかなか気づかないけど、面白いですよね」



その土地の今と昔を知り尽くしたガイドがいるからこそ見えてくる、地域の奥深さ、複雑さ。こういった発見こそガイドツアーならではの価値かもしれません。
石壁側は辰野町にある矢彦神社。木壁側が塩尻市にある小野神社。壁の素材からも地域の違いが感じられます
ツアーを通じてその町のポテンシャルに気づく
そして、サイクリングツアーの一行は小野宿の真ん中あたりに鎮座する「南塩終点の地」と書かれた石碑に到着。
「南塩とは、太平洋側の海から取れた塩のことでね。南塩が伊那街道や甲州街道を経て、最後に運ばれる場所がここ、小野宿だったことから名が付いたんです」と小口さん。ちなみに辰野町小野の隣にある塩尻市は、日本海(北側)の塩の終点地で、塩「尻」と呼ばれているそう。地名の背景には昔の日本人の営みが表れていて奥深い!

そういった歴史を生かして、さらに面白い企画が構想されていると言います。

「太平洋側の静岡で取れた塩や水と、日本海側の新潟で取れた塩や水を、互いに自転車で持ち寄って。ここ南塩終点の地で合流して交換しあおうって、サイクリング仲間たちと話しているんです!」


ワクワクした様子で構想中の企画を語ってくれる小口さん。徒歩や馬で塩を運んで交易していた昔の営みを、自転車で現代に復活させるという試みに、ロマンを感じられずにはいられません。

「あとは、このあたりに使われていない旅籠(はたご)があるから、そこをゲストハウスなんかにして、旅人の宿にしてもいいかも!」



今は「旅籠」と書かれただけで使われていない歴史的建築物も、現代のライフスタイルにあった使い方をすればむしろ魅力的な観光資源になり得るというのは目から鱗の発想です。

「どうしたら小野宿がもっと盛り上がるかな…?」

小口さんに感化されたのか、いつの間にか、そんなことを私自身も考えながら、小野宿を見るようになっていました。

ただ景色として通り過ぎていた小野という町を、企画の視点で街を見つめ直すと、まったく見える世界が変わっていきます。サイクリングツアーの一参加者として、自転車で地域の観光地をめぐるだけでなく、町を面白くする当事者として、その町に眠る資源を生かすアイデアを考えるのは、他のサイクリングツアーにはない魅力かもしれません。


南塩終点の地の前で記念撮影
ツアーも後半に差し掛かり、最後の休憩ポイントに。出発から2時間ほどが経ち、だんだんとお腹も空いてくる頃です。すると、それを見計らったように小口さんがリュックサックの中からごそごそと取り出したのは、手作りのおにぎり。それも、拳1つ分もあろうかという大きさです。

「おにぎり好きで有名な放浪画家の山下清が、ここ小野宿のタイガー食堂で居候していたことがあったことにちなんで作ってみました!」

ちなみに山下清は大正から昭和にかけて活躍したちぎり絵作家で、全国を放浪して歩いたことで有名。映画『裸の大将』にも描かれています。そんな山下清は辰野町のタイガー食堂に2カ月あまり居候していたことがあり、小野にあるタイガー食堂はそれにちなんで大きなおにぎりを看板商品の一つにしているそうです。
山下清になったつもりで、ぱくり
そう笑顔でサプライズをしてくれる小口さん。お腹がペコペコだった私は早速かぶりつきます。シンプルな塩味でしたが、お米の甘味と手作りならではの温かみが感じられ、お腹も心も満たされる、これまで食べた中で一番おいしいおにぎりでした。おまけに甘酒まで振る舞ってくれ、疲れた体に沁み渡ります。
無心でおにぎりを頬張るみなさん
すっかり体力を回復した一行は、軽快な走りで最後の休憩ポイントを後に。そして12時にはスタート地点のgrav bicycle stationに到着しました。あっという間だけれど、普段の日常からちょっと離れて、新鮮な視点で地域を旅できた贅沢な時間になりました。



正直に言えば、実際に体験するまで、サイクリングはあくまで自転車好きの人向けのニッチなアクティビティだと思っていました。

けれど、ツアーに参加してみて、電車や車でめぐる旅にはない、ちょうどいいスピード感と、それゆえに普段見逃してしまうような、足元の地域の面白さや小さな幸せに気づける、マイクロツーリズムとしての可能性がサイクリングにはあると感じました。今回は秋のサイクリングだったので、次は冬が明けて草花が芽吹く春に参加してみたいと思います。

速度が変わると、世界が変わる。あなたも、自転車とともに、再発見の旅に出かけてみませんか?
自転車の貸し出しなどはこちら
grav bicycle station
住所:上伊那郡辰野町下辰野1704
電話番号:090-7732-1198
URL:https://gravbicycle.com

*この記事の情報は、令和3年2月12日現在の情報です。



伊那谷サイクルマップhttps://www.inadanikankou.jp/files/topics/1455_ext_21_0.pdf







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みんなの体験記ライター
投稿者北埜航太
年代20代
趣味カフェ、古民家、歴史ある町めぐり、ジブリ
自己紹介東京の文京区から辰野町に移り住みました。無垢の暮らしが残る、自然体の伊那谷が好きです。そんな伊那谷の雰囲気そのままに飾らない言葉で伝えられるように頑張ります。