みんなの体験記
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農家民泊体験!Uターン夫婦が繋ぐ、里山の暮らしをのぞいてみよう
農家民泊「桑田北」
五平餅づくり体験の様子
農家民泊って?
農家民泊は、農家にホームステイして、農作業などをしながら田舎暮らしを体験できる旅行プログラムです。伊那市では約65件の受け入れ農家さんがいて、修学旅行などの教育旅行や、海外からの観光客にも人気のプログラムになっています。
首都圏・中京圏にお勤めで、「半農半X」の生活に憧れる方々にも人気急上昇中!そんな、農家民泊を体験してきました。
南アルプスに抱かれた里山=長谷
伊那市長谷(はせ)地区は南アルプスの玄関口とも呼ばれる地域。南アルプスから流れ出た三峰川と美和ダムが美しい谷間(たにあい)の集落です。昔は林業や養蚕が盛んで、長谷の農家さんは山の資源を活かした里山の暮らしを続けてきたといいます。
泊まるのはどんな農家さんのお家?
私たちが今回訪れたのは、「桑田北」の屋号で農家民泊を行う中山幾雄さん(70)、恵理さん(69)、しづ江さん(96)のお宅です。
左からしづ江さん、幾雄さん、恵理さん
「桑田北」の屋号で農家民泊を行う、歴史ある農家さん
田んぼが4枚、小さめの畑が3枚、山際には栗の木が植えられ、味噌蔵、養蚕を行っていた建物、ホロホロ鳥の飼育小屋……と、敷地内を案内していただいただけでも、この家の歴史が垣間見えます。

階段の手すりに唐辛子が干されていたので、「自家用ですか?」と聞くと、「長谷中学校の生徒が唐辛子を地域の特産品にしようと頑張っているので、それを応援して育てている」と幾雄さん。地域の新しい動きにも敏感に反応されているようでした。
階段の手すりに干された唐辛子
家族で飼育するホロホロ鳥
元気に動き回るホロホロ鳥
中山さんのお宅では全国的にも珍しいホロホロ鳥が飼育されています。聞き慣れない鳥の名前ですが、フランス料理などで食されることの多い高級食材。アフリカ原産のキジ科の鳥です。
「番犬ならぬ、番鳥って言われることもあるくらい、警戒心が強く鳴き声も大きいから、こういう田舎じゃないと飼えないんだよ」と恵理さんが笑って話してくれました。

このホロホロ鳥が長谷にやってきたのは、昭和60年代のこと。それ以前に旧長谷村の村長を務めていた中山さんのお父さんが、「長谷に特産品を」と数件の農家で飼い始めたのがきっかけだそうです。
担い手の高齢化や鳴き声の問題などから、今でも続けているのは中山さんのお宅だけだそうですが、日本国内でも飼育者が限られているため、中山さんのホロホロ鳥は珍重され、某有名リゾートホテルにも出荷されているそうです。
敷地内には孵卵(ふらん)器などもあり、試行錯誤して飼育をしている様子も見ることができました。

「ホロホロ鳥の卵を取るのは今でもお袋の仕事なんだよ」と幾雄さん。お母さんのしづ江さんは96歳。歳を重ねても役割があるっていいなと感じる一言でした。
地域と暮らしを守って10年が過ぎた
農家民泊の取り組み、ホロホロ鳥の飼育、そのほかにも、この地区では少ない契約栽培の加工用トマトや、消滅寸前の地域在来種である黒いトウモロコシの栽培…と、中山さんはご夫婦で、「地域を元気にする」ことに次々と挑戦していらっしゃいます。

以前は東京都で行政職員を務めていた中山さんですが、毎年稲刈りなど人手がいる農繁期には帰省し、平成元年に幾雄さんのお父さんが亡くなられてからは、毎月長谷に戻って農地を維持していたと言います。定年退職を機に長谷に戻り、農業を中心とした生活を始めたそうです。
それから10年。今では、地元の営農組合や、地域づくりグループにも参加し活動しているそうです。

里山の暮らしを繋ぎつつも新たな興味を生活に加えていく――。そうやって地域を守る姿が素敵だなと感じました。
初めてやった!青大豆の豆たたき
殻がはじけた青大豆
農家民泊の醍醐味の一つに、農作業体験があります。

この日は収穫して干してあった青大豆を叩いてさやから豆を出す、「豆叩き」という作業を行いました。青大豆を豆の状態で見たことがなかったので、綺麗な翡翠ひすい色に思わずため息が出ました。

中山さんのお宅では、味噌を青大豆で作るそうです。「この味噌がすごく美味しいんだよ」と話す恵理さんの言葉に想像を巡らせながら体験がスタートしました。
豆叩きの様子
まずは、乾燥した青大豆を酒のカートン(これが便利!)の上に載せ、木の棒で叩いて殻から豆を出す作業です。まさに「豆叩き」。バンバンと少し強めに叩くと、殻が裂けて、翡翠色の大豆が弾けて出てきます。カートンの籠のような隙間から落ちて、下に敷いたシートの上にたまる。良く考えられた仕組みでした。

「森鴎外の小説にも平安時代の豆叩きの様子が書かれているんだよ」と幾雄さんの話を聞いて、自分たちの生活と昔の暮らしが繋がっている気がして農作業っておもしろいなと感じました。豆が殻から出たら、次は豆とゴミを分ける作業です。ふるいで大きなゴミを取り除いた後、唐箕(とうみ)で風を起こしてゴミを飛ばしていきます。
唐箕(とうみ)手前のレバーを回して風を起こす
出てきた唐箕を見てびっくり!「歴史博物館で見たことがある気がする!」と思わず声をあげてしまいました。「現役で使っているよ」と幾雄さんは笑いながら準備を進めていきます。この唐箕は木で作られていますが、仕組みを見てみると、風を起こして豆とゴミを重さによって振り分けるという構造。最近の機械化された唐箕とほとんど同じで、意外と根本の仕組みは変わらないのだなあ…と感心しました。

作業の後は、農作業と切り離すことのできないお茶休憩。お茶請けにご用意いただいたおやきがとても美味しかったです。
中山さんの家で採れた小豆と野沢菜を具にした2種類のおやき
伊那谷名物を食べられる夕ごはん
休憩の後は夕食の準備をお手伝い。私は五平餅を一緒に作らせていただきました。お米を潰して丸めて、話しながらする作業はとても楽しくあっという間でした。この日のメニューは、伊那谷名物のソースカツをメインに、五平餅、くるみあえ、べんり菜の胡麻和え、レンコンと鶏肉の炒め物、伊那の伝統野菜である羽広菜(羽広カブ)の漬物、大根の辛子漬けでした。
夕食の後は、星空観察をしてから布団へ。程良い疲労感と高遠の温泉で暖まった体に布団が心地よく、すぐに眠りにつきました。
朝は朝食を食べ、中山さんのお宅の近くにある重要文化財の熱田(あつた)神社まで散歩をして、1泊2日の農家民泊体験が終了しました。

自分の家で採れたものをふんだんに使って用意された食事や、ゆったりと流れる時間を感じて、農家さんの生活はなんて豊かだろう!と思いました。自分の普段の生活とは違う時間軸の生活を体験するのは、とても新鮮で、癒される体験でした。
季節によって違う体験内容
農業体験の内容は、受入農家ごとに異なり、客層や時季等に合わせてプランが変わるそうです。(一社)伊那市観光協会に登録されている農家さん達は講習会も定期的に行っていて、新型ウイルス感染予防対策なども話し合いながら慎重に行っているとお話されていました。
9月上旬、昔から長谷で食べられているというとうもろこしの収穫作業の様子
この日は、冬も間近な時期だったので豆叩きを行いましたが、時期によっては、野菜の収穫作業や、土を耕して種を播く体験をすることもあるそうです。時には、近くの釣り堀で一緒にニジマスを釣って夕食に食べることもあると伺い、季節を通して何回も来たくなってしまいました。
■農家民泊を体験するには
連絡先:(一社)伊那市観光協会
住所: 伊那市下新田3050番地
TEL:0265-96-8100 
HP:https://inashi-kankoukyoukai.jp/
費用: 9,800円/1名
最少催行: 2名以上
所要時間:1泊2日
実施時期: 通年

*この記事は、令和3年2月に公開をし、令和5年8月に一部修正をしたものです。
みんなの体験記ライター
投稿者羽場友理枝
年代30代
趣味合気道、カフェ巡り
自己紹介伊那谷にUターンして、仲間と畑を耕しながら農ある暮らしを模索中。栗の甘露煮、梅シロップ、数々の漬物…こうしたものに時間をかけられる丁寧で豊かな暮らしに憧れています。