木質バイオマスの一大製造地、エコツアーで伊那市高遠町を巡る
伊那市自然エネルギーツアー「木質バイオマスコース」
木に由来する再生可能な資源のことを「木質バイオマス」と呼びます。長野県伊那市高遠町には、日本有数の規模を誇るペレット工場と薪(まき)生産拠点が集積していて、一帯は、木質バイオマス燃料の一大製造拠点となっています。
これらの木質バイオマス燃料は、地球温暖化防止効果があるとされ、化石燃料に代わる「再生可能エネルギー」として注目されています。
しかし、そう言われても、「石油の代わりに木を燃やすんだから、結局CO2(二酸化炭素)が出るんじゃないの」と、ちんぷんかんぷんな筆者。そこで、木質バイオマスをテーマに市内の関連施設を見て回るツアーを主催するNPO法人南アルプス研究会の小澤陽一(おざわ・よういち)さんに見所を案内してもらいました。
国内最大規模のペレット製造工場を訪ねる
2月某日。「伊那市自然エネルギーツアー」を企画した同研究会の案内で、「木質ペレットコース」の見学先を回りました。
最初に訪れたのは、上伊那森林組合のバイオマスエネルギー工場。ここでは、ストーブやボイラーの燃料に使われる「木質ペレット」を作っています。
まず目に飛び込んでくるのが、敷地内に積み上げられた巨大な丸太の数々…。上伊那地方の森林から切り出されたアカマツとカラマツです。
ペレットの原料となるアカマツとカラマツ
その数の多さに圧倒されていると、工場長補佐の竹内一晴(たけうち・かずはる)さんが教えてくれた内容に、もっとびっくり!
「ここに置いてある丸太の総重量は1800トンで、補充しなければ、3ヵ月ですべてなくなってしまう」というのです。
それもそのはず。こちらの工場は、間伐材からペレットを作る工場としては国内最大規模。2020年の製造量は計3500トン。製造されたペレットは袋詰めをして全国の消費者の元へと届けられるのだそうです。
ペレット工場の中の様子
さっそく製造の様子を見させてもらいました。工場の中にはさまざまな機械があり、ほとんどの工程が自動化されています。
簡単に工程を説明すると、まずは機械で丸太を粉砕して、おが粉にします。そのおが粉をアカマツとカラマツが3対7というバランスで配合し、熱風をかけて乾かします。
十分に乾いたら、仕上げの工程へ。専用の成型機にかけてペレットが出来上がります。この際、一気に圧力がかかるので、表面は一時的に70度~80度もの高温になるそうです。
出来たてのペレット
これが出来たてのペレットです。手で触れるとホカホカと温かく、表面には接着剤のような粘り気を感じます。
「それは松やにの成分が熱で溶けだしたものです。何も特別なものは入れていませんが、冷えると表面が固くなるんです」(竹内さん)
確かに少し時間を置くと、テカテカと表面がコーティングされたように固まりました。
ペレットは長さ3センチ未満のものが製品となり、大きすぎるものは出荷できません。こちらでは3センチ以上のものを機械が自動で選別し、規格外のものは熱風炉の燃料として再利用する仕組みになっています。
木を切り、活用する、森林組合の役割
製造の流れの説明を一通り受けた後、気がかりだったことを竹内さんに質問しました。
わたし:「これほど多くの木を切り出してきて、森は大丈夫なんですか」
竹内さん:「この程度なら、心配ありません。むしろ、山を守ることに貢献しています」
というのも、上伊那森林組合は、森に木を植え、間伐し、加工するという一連の役目を担っています。もちろん過剰に木を切りすぎてしまってはいけませんが、必要な範囲で森林の伐採や更新を進めていかなければ、むしろ山は荒れてしまいます。
ペレット工場ができる以前は、間伐した木のうち、資材として使えない部分は、山中に捨てられていたと言います。こうして木質バイオマス燃料として利用することは、森林資源を無駄なく使うという意味で理にかなっているというのです。
続けて、「カーボン・オフセット」の考え方についても説明がありました。
木を切って燃やせばCO2が発生しますが、その一方で、森を整備して新しい木を育てればCO2を吸収してくれます。
化石燃料に頼りきっている日本の現状を考えれば、木質バイオマス燃料の利用が増える分、CO2の排出量が減り、地球温暖化を抑制できるというわけです。
竹内さんの話を聞いて、わたしが抱いていた疑問も解消されました。
自宅へ薪をお届け、薪ストーブを身近に
薪ストーブを販売している同社では、薪を用意するわずらわしさを解消しようと、自宅へ薪を宅配する独自のサービスを行っています。
サービスの利用者は約1900軒。寒波が来て気温が下がると、消費量も急増するそうで、専用の機械を使って大量生産しています。
斧を振りかぶってたたき割る—。そんなイメージと現実はかけ離れていて、ほとんど力を入れることなく、快適そうに薪を作っていました。
提供写真:専用の機械でまきを割る様子
いくつもの種類の薪ストーブを備えるショールームで、宅配サービスの仕組みを聞きました。
まず、サービス利用者宅の屋外に専用のラック(高さ1.5メートル、幅1.5メートル)を設置します。そして11月~4月のシーズン中、同社の担当者が見回りをして、薪の減り具合を見て必要に応じて補充します。
自分で薪を用意する手間が省けるだけでなく、保管スペースを確保できないという人のニーズにも応えられるとのことでした。
最低気温が氷点下まで冷え込んだこの日。体の芯まで届く薪ストーブの暖かさを身をもって体験できました
炎を宿した薪ストーブの前で、副社長の白鳥政和(しろとり・まさかず)さんに、薪ストーブの魅力を聞きました。
薪ストーブには、心に安らぎを与えてくれたり、家族の団らんの時間を作ってくれたりと、他の暖房器具にはない利点がいくつもあると言います。東日本大震災の際には、停電のさなかでも火を使って料理をするためにも使え、その利便性が見直されたそうです。
白鳥さんは「薪を用意しなければならないという唯一のデメリットを解消しようと考えたのが、薪の宅配サービスなんです」と、教えてくれました。
見て知って納得して、行動を
伊那市では公共施設でペレットストーブを見かけます。わたしの職場のオフィスがある「allla(アルラ)」(伊那市荒井)にも設置されていて、上伊那森林組合が製造している木質ペレットを燃料に利用しています。
以前からおしゃれな見た目が気に入っていましたが、今回、ペレット製造工場を訪れてその背景を知り、見方が変わりました。
伊那市は市全体の面積の約8割を森林が占めていて、木質バイオマスは「地産地消のエネルギー」でもあります。
「自分で見て知って納得して、それから行動に移してほしい」。そんな小澤さんの思いを、これからも忘れないようにしたいです。
申し込みはNPO法人「アルプス研究会」へ
伊那市自然エネルギーツアーには2つの行程があり、今回取り上げたのは「木質バイオマスコース」の一部です。
実際のツアーでは、午前10時に伊那市役所に集合し、ディーエルディーと上伊那森林組合バイオマスエネルギー工場を見学。その後、昼食をはさんで、温泉水の加温に木質ペレットを使っている「さくらの湯」(伊那市高遠町)を訪れます。
ツアーの詳しい内容を紹介する専用ホームページ
(https://re-energy-tour.com/)があり、そちらから申し込み・問い合わせすることができます。
電話による問い合わせは、NPO法人「南アルプス研究会」の金子さん(☎080・6518・1104)まで。
【ツアー詳細】
NPO法人南アルプス研究会
TEL:080-6518-1104
HP:
https://re-energy-tour.com/料金:7,800円(税込)
*バス代、資料代、昼食代、保険料含む。
*伊那市までの交通費、宿泊費は含みません。
最小催行人数:10名
最大催行人数:25名
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