みんなの体験記
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受け継がれる味と歴史。好奇心が掻き立てられた「五平餅作り体験」
はびろ農業公園みはらしファーム
おいしいものを食べたい。「なぜ、おいしいのか」も知りたい…。そんな望みを満たしてくれる郷土料理体験が伊那市のはびろ農業公園みはらしファームでできると聞いて行ってきました。今回のテーマは「五平餅」。伊那谷ではハレの日に作って食べたり、土産品として売られたりしている、万人が愛する「ふるさとの味」です。
今回、初めて自分で作ってみました。
南アルプスを望む高台に位置する「はびろ農業公園みはらしファーム」
五平餅作りを体験できるのは「はびろ農業公園みはらしファーム」
伊那市の西側、中央アルプスの麓、標高900m近く。「はびろ農業公園みはらしファーム」は、その名の通り、南アルプスの山並みが目の前に広がり、その手前に伊那谷を一望できる絶好のロケーションの地にあります。伊那インターから車で5分ほどです。

イチゴ・ブルーベリー・ブドウ・リンゴなどの収穫体験をメインに、季節の野菜・果物や、名物の豆腐・味噌・漬物などの農産加工品を購入できる農産物直売所「とれたて市場」があります。そば処・レストラン・立ち寄り湯なども立ち並んでいます。その一角にある、五平餅づくりや蕎麦打ちなどの料理体験や木工体験が楽しめる体験交流の家「やってみらっし」(伊那谷の方言で「やってみたら良いよ」の意)が今回の会場です。
みはらしファームの広い駐車場と、奥に見えるのが、今回の会場「やってみらっし」
明るくて広々とした内装
先生役は、農家のベテラン主婦でもある溝上かつ子(みぞかみ・かつこ)さん。みはらしファームの米加工施設で、五平餅やおやき、いちご大福などを作っているプロフェッショナルです。ちなみにこの加工施設の商品は、農産物直売所とれたて市場で販売されています。
平たい団子型の餅を2個差し、くるみ・山椒の味噌
エプロンを借りて着けたら、いよいよ五平餅づくりに挑戦です。
予約した体験開始時間に合わせて、五平餅にするお米が丁度炊きあがるよう準備してくれていました。

「五平餅は、南信州の郷土料理でね、地域によって、お餅の形や味噌の味は若干変わるんだけど、この上伊那地方では、大体、平たい団子型のお餅ね」と溝上さん。
平たい団子型のお餅を2~3個串にさした形。表面を焼いて「くるみ」や「山椒」の入った甘い味噌を塗って食べるのが上伊那流だそう。今日はこれに挑戦です。

炊きたてご飯をボールに入れ、塩を少々入れたところで、「すりこぎ棒でご飯を潰してみて」と溝上さん。
マスクをしていても、炊きたての良いにおいが迫ってきます。さすが米どころ上伊那産のお米たち、眩しく光っています。「今すぐ、このご飯が食べたい!」という食欲と戦いながら、立ち込める湯気の中、手を動かします。
「半殺し」⁉とは物騒な… 
しだいに、すりこぎ棒に、潰されたご飯がまとわりついて、混ぜづらくなります。あー、これ以上、潰すのが難しい、手が重い…となったところで、「もう大丈夫よ」と溝上さんが声をかけてくれました。

ご飯の粒が半分くらい潰れてきたらOKだそうで、これが「半殺し」と呼ばれる状態だそう。インパクトのある面白い呼び方です。

お米は「うるち米(コシヒカリ)」と「もち米(モチヒカリ)」。うるち米に対して、もち米を1割ほど混ぜ、水加減は通常の白米炊飯時の1~1.2割増し。炊飯器で炊けば良いとのこと。

「家で、五平餅を作る場合は、うるち米だけでも良いのよ。その変わり、もうちょっとしっかり潰して粘りを出してね」と教えて頂きました。嬉しい情報です。
「半殺し」の餅状になったら、次はそれを40~45グラムぐらいにちぎって、丸めたお餅にするのですが、なかなかこれが難しい。手に水をつけてやっても、べとべと餅が手にくっついて、同じ大きさに揃えるのは容易ではありませんでした。溝上さんは、手際よくお餅をちぎって丸めていきます。大きさも形もそろっていて、さすがにプロの腕前。
表面がパリッとするまで焼き、串に刺し、味噌を塗る
続いて、丸めたお餅の表面を200℃くらいに熱したホットプレートで焼いていきます。目の前で溝上さんが、熱いお餅をサッサッとひっくり返して両面を焼いて見せてくれます。真似しようとしましたが、「熱いかも…」と、おっかなびっくりの私には、うまくできません。子どもや、私のような不慣れな人には、作業しやすいようにお箸を用意してくれますので、どうぞご安心を。

「少し焦げ目がついて、表面がパリッとしてくるまで待ってね」

そう言われているうちに、香ばしいにおいが漂ってきます。この時点で、既にとても美味しそう。
お餅が焼けたら、2個ずつ串にさします。
お餅を串にさして、味噌をぬろうとすると予想以上に不安定。
「こうやって、手のひらにお餅をのせてぬってみて。塗りやすいから」

バターナイフで粘りの効いた甘い味噌をちょこんと乗せて、塗り拡げると出来上がりです。美味しそうに上手にぬるのにも、コツがありました。

ソーシャルディスタンスを保って、作りたて五平餅を食べましたが、くるみのコクが舌に広がり、山椒の香りが鼻の奥に届きます。表面を焼いたお餅と最高な組み合わせでした。
「五平、五合」…決して大袈裟ではないかも
「昔から、『五平(ごへい)、五合(ごんごう)』って言ってね。五平餅は美味しいから、皆が、ついつい食べ過ぎちゃうものなんだよ」と溝上さん。

以前からこの言葉を聞くと「五合も食べるなんて大袈裟でしょ」と思っていましたが、実際に自分で作ってみると、炊きたてのご飯の香り、それを焼いた香ばしい香り、くるみや山椒の入った味噌の味など、食欲が刺激される瞬間がいくつもあって、「本当に五合食べられるかも」と思ってしまいました。
信州、山との身近な暮らし
この食欲を誘う甘い味噌は、くるみ・山椒・砂糖を信州味噌に入れ、混ぜて煮るのだそうで、今日も予約に合わせ作っておいてくれた味噌でした。基本は、信州味噌と砂糖1:1。そこへ、くるみと山椒。
「家の庭とか田んぼの脇とか、山椒の木は身近にあるから、新芽を気軽に採って味噌に入れるのよ。植えてある場合もだけど、ほら、野鳥の置き土産(注:糞のこと)から勝手に生えてもくることもあるのよ、山椒が」と、笑いながら溝上さん。

自然に囲まれた里山暮らしだからできる豊かな食の営みかもしれません。「家で食べる分には、別に山椒でなくても、ない時は胡麻とかえごまとかでも良い。その時々で美味しいのよ。この甘いお味噌、作って余ったら野菜の和え物に使ってもいいわ」とアドバイスも。
「五平餅の由来はいろいろ。猟師さんとか山仕事に行く人達から始まったって言われているね」と溝上さん。

「五平さん」という人が、味噌をぬった保存に良いおむすびを山に持って行って、休憩の時に焼いて食べたら美味しかった。それで広まった―というのが最もポピュラーないわれ。その他にも、長野―愛知県境のあたりでは、「御幣餅」という字で書き表す地域もあり、お餅の形が山の神事に使われる御幣(ごへい・おんべ)に似ているからこの名になったという説もあります。お餅の形は他にもわらじ型とか小判型のものもあるそう。地域によっていろいろな「ごへいもち」があるのは面白い、興味津々のところです。

だんだん好奇心が掻き立てられ、地元の美味しいもののこと、もっと詳しく知りたい、もっとたくさん食べたい!となった体験でした。

安心してお料理が体験出来ます。みなさん、この美味しいを体感してみてはいかが。どうぞ食べ過ぎには注意してください。
■詳細情報
郷土料理を作ってみよう!五平餅作り体験 ※所要時間45分 1人 750円(五平餅4個作成)
3日前までに要予約。エプロン道具等は用意されています。五平餅を作って、その場で食べられます。

・「はびろ農業公園みはらしファーム」ホームページ
・体験交流の家『やってみらっし』多種多様なプログラム
予約をしておけば、子どもから大人まで楽しめる、手作り体験が他にもたくさんあります。

*この記事は、令和3年3月に公開をし、令和5年8月に一部更新をしたものです。
みんなの体験記ライター
投稿者青葉千春
年代40代
趣味スキー、バイク、鉄道、歴史&建築探訪
自己紹介Iターン歴20数年。猫3匹と生活。地域の皆さんから野菜やお漬物を頂いたり、癒やされる日々。修行した農作業のお手伝い、特技は「分け目切」「稲藁立て」。
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