みんなの体験記
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ドローン操縦を体験しに行ったら、地域の課題について考えさせられた話
(株)D I G T R I P
“ドローン(小型無人航空機)”と言えば、空からのダイナミックな情景を撮影した「空撮」をイメージする方も多いかと思います。近年では、その用途も多様化し、防災や農業、運送などさまざまな分野で活躍しています。

ここ伊那市では、2020年8月より、中山間地での買い物困難者の支援を目的としたドローン運送サービス「ゆうあいマーケット」の運用が始まりました。自治体が推進主体となるものとしては国内初の試みです。※伊那市調べ (2020年8月5日時点)

私たちの暮らしに、より身近になったドローンですが、実際に“操縦”するとなるとなかなか機会に恵まれないもの。そこで今回は、伊那市とともにゆうあいマーケット事業を進める(株)D I G T R I Pの大木大輔(おおき・だいすけ)さんの指導のもと、ドローン操縦を体験してきました。
まずはシミュレーターで感覚を掴む
2月某日、伊那市の「産業と若者が息づく拠点施設allla(あるら)」で行われたドローン操縦体験入門編に、小学6年生の息子と一緒に行ってきました。
「難しいことはさておき、早速いじってみる?」
そういって大木さんが取り出したのは、実物のコントローラーにダブレットを取り付けたシミュレーター。まずはこれで、基本的な操作を練習します。
操縦は、2本のスティックを上下左右に動かして行います。
「倒しすぎると行きすぎちゃうから、コツは、じわ~っと倒す感じ」と大木さん。これは実際に操作してみないとわからない感覚です…。

「あれ?どこ飛んでるかわかんなくなっちゃった…!」

頭ではわかったつもりでも、スティックの動きを組み合わせて絶妙な力加減で操作するのが難しく、なかなか思い通りにいきません。これには親子で苦戦気味。
大切なのは、安全に飛ばすこと
「じゃあ実際に飛ばしてみるよ」
大木さんが実機でお手本をみせてくれました。その操縦はとにかく正確で、宣言したルートをブレずに飛行し戻ってきました。
「想像より地味で、見ててもそんなに面白くないでしょ?」と笑う大木さんでしたが、先ほど操縦の難しさを知った私たちは、その技術に尊敬の眼差し。

「ドローンって、派手に飛ばす競技用を連想する人も多いけど、産業用に使う場合は安全に飛ばすのが第一」そう言われると、操縦するときの意識も変わってきます。
憧れのドローンを飛ばす
私たちは、比較的扱いやすいトイドローン「TELLO(テロ)」を操縦させてもらいました。重さわずか80グラム、幅40センチほどの小さな機体です。スマホのアプリに接続すると、一瞬で自分のスマホがコントローラーに!
「お~!飛んだ、飛んだ!」
離陸の指示で、機体は小さな羽音を立てながら垂直にふわっと浮かびあがりました。その場でホバリングするスマートな立ち姿(飛び姿?)は、まるで、意志のある賢い生き物のようにも感じられます。

私が子どもの頃に遊んだラジコンヘリとは違い、比較的安定して飛んでくれますが、思い通りに動かすにはかなり練習がいりそうです。しかも、これを外で飛ばすとなると、風を受けたり障害物を避けたりと、室内で飛ばすようにはいかないでしょう。

あとで気になって、近年起こったドローンによる事故トラブル(※)を調べてみると、「樹木に接触し墜落、紛失した」、「電波が途絶え落下した」など、ひとつ間違えば大事故に繋がる事例も。

※参照:令和2年度 無人航空機に係る事故等の一覧(国土交通省に報告のあったもの)

「風にあおられて機体がなくなってしまい、コントローラーだけ手元に残ってしまった、という人も多いよ」
大木さんからそんな話を聞くと、ルールを守った正しい使用と確かな操縦技術が不可欠だと感じました。

ちなみに、無人航空機(ドローン・ラジコン機等)の飛行ルールは、こちら(外部サイト)に詳しく記載されています。
プログラミングで思い通りにドローンを操る
次に、プログラミング飛行にも挑戦しました。プログラミングと聞くと少し難しそうで身構えてしまいますが、タブレットの画面にはパズルのようなポップな画面が表示されていてなんだか面白そう…。出発地点を起点に「離陸」「上100センチメートル」「前90センチメートル」…などとパズルを指でドラックして繋げ、動きを組み立てていきます。

「何か目的を決めて動かしてみよう」
大木さんにうながされ、机を障害物に見立て、机の手前から上空を通過し、反対側に回り、下をくぐって着陸する……このようなルートを飛行させてみることにしました。

これがなかなか難しい。動きを制御するには離陸地点と机との距離、机の幅や高さ、機体のサイズなども考慮して数値を入力しなくてはなりません。数センチ計算が狂えば、机に接触してしまいます。

「あれ?高さが足りない」「今ギリギリだった!」と繰り返しいろんなパターンを試してみます。さらに、X,Y,Zの座標値で制御してみると、斜め方向に移動し入力したとおりの座標にきっちり止まりました。

ルートの作成に試行錯誤していると、時間を忘れて夢中になってしまいました。
「プログラミングは、2020年からすでに小学校の必修科目にもなったよね。“コンピュータに意図した処理を行わせるために必要な論理的思考力を養う”とはこういうことで、スイッチひとつで自動的にロボットが働いてくれる裏には、こうしたプログラミングの技術があることを知っておくのも大切だね」

大木さんの言葉に、子どもたちに求められている力も時代とともに変わってきていることを実感します。また、学校で学ぶ機会のなかった世代こそ、こうしてやさしく技術に触れられる場が必要かもしれません。
わかりやすく教えてくれる大木さん。マンツーマンの指導で大満足!
自治体が運営主体となるのは国内初!ドローンで生活用品を空送する「ゆうあいマーケット」
伊那市では、2020年8月より、ドローンで生活用品を空送する「ゆうあいマーケット」の運用が始まっています。せっかくなので、この事業で配送オペレーションに携わる大木さんに、質問をぶつけてみました。
日用品を空送するドローン  写真提供:大木さん
――「ゆうあいマーケット」は、具体的にどんな事業なんですか?

大木さん:山あいの集落では、少子高齢化による買い物弱者の増加や、支援の担い手不足などが地域課題となっています。そこで、ドローンを使って日用品を届けようというわけです。現在は、伊那市の長谷エリア3ルートでの実用が始まったところです。

――注文から配送までは、どんな仕組みなんですか?

大木さん:利用者さんがケーブルテレビの画面か電話で商品を注文すると、スタッフが高遠町のニシザワ高遠食彩館の商品をピックアップして、道の駅南アルプスむら長谷から各地の公民館までドローンで空送するんです。

――車を運転できないお年寄りなどには、自宅近くまで届けてくれるのはうれしいサービスですね。

大木さん:そうそう。公民館まで受け取りに来られない方には、ボランティアスタッフが“見守り”もかねてご自宅に届けたりもしますよ。

――先端技術を使っても、“最後は手渡しで”というのが温かみがありますね。
  配送で使うドローンはどんなものなんですか?

大木さん:空送に使うドローンは、目視外自律飛行や遠隔監視制御ができるもので、最大5kgまで積載することができます。民間で使用されているドローンのほとんどは海外製なんだけど、この事業で使用しているものは国産なんですよ。近年、国も国産ドローン産業育成のために力をいれています。

――へぇ~!日本の課題に合った独自の開発が進んでいきそうですね。

大木さん:ドローン技術の発達でもっと便利な社会になったらいいよね。

――はい!伊那市以外にも、買い物困難者への支援が課題となっている地域は全国にあるでしょうから、これをモデルケースに思いやりのある取り組みが広がるといいなと思います。
増える、産業用ドローン活躍の場
調査によると、近年のドローンビジネスの市場規模は2018年度の931億円から、2020年度の1932億円まで2倍以上に拡大しています(※)。特に、産業用は、農薬の散布や測量などにも使用され、さらに、災害対策の分野では、災害が起こった際に一早くドローンを現場に向かわせ、被害状況の把握に役立てるなど、機体の性能が発達するにつれさまざまなことができるようになりました。
(※出所:「ドローンビジネス調査報告書2020」インプレス総合研究所)

大木さん自身も伊那市との間に、【災害時等における無人航空機による支援協力に関する協定】を結んでいるそうです。
説明をしてくれる大木さん。「こんな風にマイクを取り付ければ、例えば災害があったときに、『危険です』とか、『避難してください』と呼びかけたりできるものもあります」
いろいろなタイプのドローン。右から、主に空撮を得意とするPHANTOM、災害時にも活用されるDJI Mavic、小さいものがトイドローンTELLO
今日は、軽い気持ちで“ドローン遊び”をするつもりが、思いがけず社会で活躍するドローンについて知る機会となりました。子どもはもちろん、大人も遊んで学べる体験としておすすめします。

今回は、ドローンの基礎を学ぶ体験会のため室内で行いましたが、大木さんはプロ向けのドローンスクールで講師もされています。自分の目的やレベルに合わせ、検討してみてはいかがでしょうか。

◆ドローン操縦体験入門編
体験料:1組1回10,000円(1組3名まで)
会場:ご相談の上
お問い合わせ:(株)D I G T R I P
メール:info@dig-trip.com

◆関連リンク
・ドローン配送
https://news.kddi.com/kddi/corporate/newsrelease/2020/08/05/4601.html

・伊那市と「災害時等における無人航空機による支援協力に関する協定」を締結
https://ina-dani.net/Topics/detail/?id=54453

・ドローンスクールNDMC
https://ndmc.co.jp/guide_kouza_ina/

*この記事の情報は、令和3年3月に制作し、令和6年1月に内容に変更がないことを確認したものです。
みんなの体験記ライター
投稿者上島
年代30代
趣味温泉・料理・ねこが好き
自己紹介伊那谷生まれ。Uターン。 田舎の子育ては楽しい。アクティブに遊べる美しい自然と、おいしくて楽しい食・農体験がいっぱい。日々を癒やしてくれる温泉が選ぶほどあるのもうれしい。そんな故郷 伊那谷の魅力を綴っていけたらと思います。