「道の駅 南アルプスむら長谷」-南アルプスの玄関口にある農産物直売所が熱い!
道の駅 南アルプスむら長谷
どこからか梅の花の香りが漂ってくる、冬の終わりの日曜日。この日、愛車を走らせ向かったのは、「道の駅南アルプスむら長谷」でした。お目当ては、ここにある農産物直売所「ファームはせ」と「お食事処すずな」。
暖かい日差しを浴びる南アルプスむら長谷
国道152号線沿いにあるこの道の駅は、深い森と素晴らしい眺望を誇る南アルプスの山々や、日本最大の断層である中央構造線が縦貫する分杭峠に向かう国道152号沿線にあり、南アルプスの玄関口として30年以上もの間、旅人たちの休憩所の役割を果たしています。
所在地である伊那市長谷地区は、2006年に隣の高遠町とともに伊那市に合併する前までは「長谷村」という独立した村でした。その面積は約320km2。南アルプスの山頂までが含まれており、山梨県と静岡県の県境でもあります。そして、長谷地区全域は南アルプスジオパークに指定されています。
また、長谷地区は天竜川水系で最大の支流である三峰川の最上流部にあたり、道の駅の向かい側には「美和湖」と呼ばれるダム湖が美しい湖面に四季の山々の姿を映し出しています。
長谷は地球の歴史を学べるエリア「南アルプスジオパーク」に指定されています
旅人からも地元住民からも愛される道の駅
道の駅南アルプスむら長谷は、2017年に駐車場が拡充され、大型車5台、普通車100台(障がい者用1台)が停められるようになりました。中庭のように作られた芝生広場には、ウッドテーブルとベンチがあり、ドライブの休憩スポットとしてはもちろん、地元の親子連れがピクニックに訪れている光景もよく見かけます。この日も、春のような日差しの中、数組の家族が思い思いに過ごしていました。
敷地内には、農産物直売所を兼ねた「売店」、「お食事処すずな」、パン屋さん「パンや」、「南アルプス長谷ビジターセンター」があります。
今回は特別に、売店とお食事処すずなを運営されている、農業法人ファームはせ株式会社の羽場権二(はばけんじ)専務におすすめ商品と生産者さんをご紹介いただくことができました。
生産者さんと親しげに話される羽場権二専務
羽場さんが、真っ先に「この商品をご存知ですか?」と見せてくださったのが「長谷の太陽」と名付けられたラー油です。生産者さんは、なんと長谷中学校の生徒の皆さん。大自然に囲まれた長谷地区は、農業をするには難しい土地です。その大きな原因は鳥獣被害です。せっかくおいしい野菜や果物を育てても、野生動物の食害から守るのは本当に大変。そこで、中学生が「自分たちができる地域おこし」として辿り着いたのが「唐辛子栽培」でした。地元の長谷地区で栽培されてきた唐辛子などから品種を選び出して、自分たちで苗づくりから挑戦しているそうです。また、原材料で使われているネギやニンニクも完全無農薬で中学生が育てています。いずれも、野生動物が好んで食べる野菜ではないところが注目すべきポイント。現在は、伊那市のふるさと納税返礼品にも使用されており、年々注目度が上がっています。
長谷中学校の生徒さんが愛情を込めて作った逸品「長谷の太陽」
ボリューム満点!人気ナンバーワンメニューをいただきます
「長谷中学校との関わりは、これだけではないんです!」。羽場さんが次に紹介してくださったのは、お食事処すずなで提供されている「すずなのソースかつ丼」でした。お昼時でもあったので、いただいてみることにしました。長谷中学校とソースかつ丼にどんな繋がりが?と思考を巡らせていると、目の前に美味しそうな定食が届きました。すごいボリューム!なんでも、このお食事処の一番人気メニューなんだそう。確かに、注文されている方の声を聴くと、どのグループも決まって「ソースかつ丼!」と言っています。
「これが、長谷中学校の皆さんと地域の方が作っている甘辛みそ『元気みそ』です」と満面の笑みで指さされたのは、小さな器に入った舐め味噌でした。少し舐めてみると、かなりのパンチが利いた辛さです。小さなかわいらしい器の意味がわかりました。「原材料は、先ほどお話ししたラー油の副産物なんですよ」と、私の反応にさらに笑顔を深くした羽場さん。ラー油を絞った後の残り滓がもったいないとの思いから、考案されたのがこの元気みそで、米麹を加えて仕込んでいるそうです。たしかに、ただ辛いだけではなく、深い旨味と優しい甘さが、どんどん箸を進めたくなる美味しさです。ヒット商品になること間違いなし!と思った私の心を読んだように、羽場さんが「実はまだ非売品なんです。お客様からはぜひ売ってほしいと言っていただけるんですよ」と教えてくださいました。現在、商品化に向けて準備中とのことですので、売店に並ぶ日が待ち遠しくなりました。
そして、存在感あるヒレ肉のソースかつ丼は、南アルプスの山脈を見立てているそうです。この大迫力は、まさに仙丈ケ岳そのもの。全部平らげて、お腹がはち切れそうになった感覚は、南アルプスを制覇したような達成感でした。
ボリューム満点の人気ナンバーワンメニュー「すずなのソースかつ丼」
うちの自慢野菜はこれだよ!
食事を終えてしばし談笑していると、一人の男性が羽場さんに声をかけてきました。「近隣の農家の伊藤茂昭(いとうしげあき)さんです」と羽場さんが紹介してくださいました。産直コーナーに出品している品物の確認にいらしたそうです。髭が素敵な伊藤さんが出品されているのはサツマイモです。サツマイモは秋の収穫物と思われますが、「競合が少ない時期を狙って出品しているんだよ。冬を超えると甘くなるんだ」と自信満々にお話ししてくださいました。でも、貯蔵方法は秘密なんですって。品種は、シルクスイートと紫芋。「紫芋を栽培して出品しているのは上伊那では私だけ」と伊藤さん。「独壇場ですね!」と感嘆の声をかけると、自慢げな笑顔が一層素敵に見えました。
筆者が訪れた季節は、栽培できる農産物が非常に限られているため、出品されている品数も少なめだそうですが、夏場になると、陳列棚に置ききれないほどの野菜が並び、大勢のお客さんで賑わうそうです。伊藤さんも、夏場はトウモロコシ、トマト、ナスなどを色々育てて出品されているそうですが「私は葉物は出さない。苦手なんだ。」とのこと。さらに話を伺うと実は、苦手なのは伊藤さんではなく、伊藤さんの畑のほうで、土目によって育ちやすい野菜が違い、葉物が得意な畑を持つ農家さんに葉物野菜はお任せしているそうです。同じ長谷地区でも、畑によって作りやすい野菜が異なるというのは面白いですね。
「ここに出品しているみんなは、ライバルというより仲間なんだよ」という言葉が印象的でした。羽場さんによると、現在90名の農家さんが組合員として登録されているそうです(準組合員も含む)。
自慢のサツマイモと一緒に
その言葉を裏付けるように、別の農家さんが入ってきました。お三方とも、とても親しげに挨拶され「こちらは、毎日出荷に来ている中山守子さん」と、私に紹介してくださいました。笑顔がかわいらしい中山さんは、自慢の冬菜と、春の山菜フキノトウ、そして、鉢植えの福寿草を出品しに来たところでした。綺麗に揃えられた冬菜は、袋にいっぱいに入って税込み108円。思わず、「値段間違えてないですか?」と聞いてしまいました。「買ってくれないと困っちゃうからね」と中山さん。綺麗に仕上げるために、ビニールのトンネルの中で育てるなどの工夫をされているそうで、丁寧な仕事ぶりが商品から伝わってきます。福寿草はこの季節の人気商品とのこと。朝出品すると、昼過ぎに売り切れてしまうこともあるそう。春の太陽を思わせる黄色く柔らかい花弁と、縁起の良い名前が人気の理由のように思いました。
雨の日も雪の日も、毎日出品しています。
「ああやって農家さんが一生懸命作った野菜でも形が悪いと廃棄されてしまう…、それを何とか救えないかと、地元のお母さんたちの手によって生まれた商品があります」
そういって、冷蔵品コーナーを案内してくださった羽場さんが一つの漬物の前で足を止めました。農産物加工施設「気の里工房」で作られた「天菜漬」です。「天菜漬って、本当は十品目の野菜を使うそうなんですが、長谷の天菜漬は七品目しか入っていないんです。でも縁起が良い数字でしょ?」と羽場さん。コロナ禍で来客が減っていることを受け、漬物の詰め合わせの地方発送を始めたところ、売店での売り上げも伸びているそうです。たしかに、形が揃わなかった野菜も刻んで漬物にすれば売れます。地元の皆さんが力を合わせて手作りで漬物にされている様子が目に浮かびました。
漬物ギフトは、長谷を想う人々の気持ちも詰まっています
溢れる、地元長谷への想い
ここまで案内してくださった羽場さんに、長谷地区への思い入れについて伺ってみました。並々ならぬ、長谷地区への熱い想いを感じたからです。
羽場さんは生まれも育ちも長谷地区ですが、高校を卒業してから14年ほど地元を離れていたそうです。しかし、やはり地元の風景が忘れられず長谷に戻って来られ、地域を活性化させたいとの思いから農業法人ファームはせ株式会社に入社されたとのことでした。
偶然にも筆者もまた、Uターンで伊那に戻ってきた身。羽場さんの思いに共感する部分もあり、また、率先して地域のために尽力されている行動力には驚きとともに非常に感銘を受けました。長谷中学校の生徒さんの将来についても話がおよびました。「都会にあこがれて地元を離れてしまっても、中学生の時に地域おこしに貢献した成功体験は自信にもつながり、生まれ育った故郷を忘れることはないと思います」と羽場さん。
その長谷中学校。給食の先生たちも生徒さん達には負けていません。学校給食甲子園2018年第13回大会で見事、優秀賞を受賞した経歴があるのです。全国1,701校・施設から選ばれた全国6ブロックの代表12チームに選出されたのですから恐れ入ります。そして現在、その給食メニューはお食事処すずなのメニューになっています。
お食事処すずなは、コロナ禍前はバイキングレストランでした。しかし、感染防止対策から定食屋さんへ業態をシフト。その名残である「すずな御膳」は、少しずつをたくさん入れてバイキング気分を味わっていただきたいと誕生した女性に大人気のメニューとのこと。「そうだ、次は地元の友人と来よう!」と思った筆者でした。
お食事処すずなで提供されているお米は、売店にも置かれている「入野谷米(いりのやまい)」と名付けられた長谷産のコシヒカリ。「入野谷」とは、長谷地区と隣接する下伊那郡大鹿村との境界にある分杭峠から、中央構造線に沿って北の高遠地域のまで広がる山間地域の古い呼び方で、その一帯で取れるお米(コシヒカリに限定)を「入野谷米」名付けたそうです。実際食べてみると、白く艶やかで一粒一粒がぷっくりと揃っており、甘くておいしいご飯でした。また、使用されている野菜も、できる限り地元産のものにこだわり、調理されている方も、地元の主婦の皆さんとのこと。なんとも長谷尽くし!
今回訪れてみて感じたのは、携わっている皆さんの笑顔が素敵なことです。そして、地元愛の強さ!「長谷を元気にしよう」という前向きな気持ちが、笑顔になって溢れているようでした。


売店の様子。栽培されたお米も買える
おすすめドライブコースはこちら!
今回ご紹介した「道の駅南アルプスむら長谷」へのドライブコースで、筆者が最もおすすめしたいのは、伊那市役所前から続く「ナイスロード」を通るルートです。
ナイスロードを進むと、目の前はまっすぐに伸びる道と広大な水田。スピードの出しすぎに注意が必要なほど走りやすい道です。右手には、三峰川が流れており、堤防は桜並木になっています。
三峰川橋を越えて川沿いに進むと、高遠町に入ります。白山トンネルを越えた先は「さくらホテル」。このホテルの斜向かいに見えてくるのは「勝間の桜」と呼ばれる枝垂桜。桜並木も枝垂桜も、いずれも、春のお花見シーズンには外せない花見スポットです。
さらに進むとワインディングの上り坂が現れます。ハンドルとアクセル操作にワクワク感が止まりません。久しぶりに見た!といった感覚になる信号「非持(ひじ)」を過ぎると間もなく左手に「道の駅南アルプスむら長谷」の看板が見えます。
あまり教えたくないけれど…、道の駅の向かい側、美和湖の湖岸にも、実は素晴らしい桜並木も続いているんですよ。
ナイスロードの景色。伊那市役所方面から南アルプスを望む
おすすめのドライブコース。両脇には見どころがたくさん
分杭峠や南アルプス登山道への休憩所としてはもちろん、お出かけの目的地として訪れてみてはいかがでしょうか。生産者さんや従業員の皆さんからは、強い元気をもらえると思いますよ。
【道の駅南アルプスむら長谷の観光情報】
住所: 長野県伊那市長谷非持1400番地
URL:
https://www.cbr.mlit.go.jp/michinoeki/nagano/nagano06.htmlhttps://www.michi-no-eki.jp/stations/view/495
【お食事処すずな】
営業時間: 10:00~17:00
11:00~14:00 ランチタイム
それ以外の時間は飲み物のみのご提供
※冬季変更あり
定休日: 火曜日
電話番号: 0265-98-2888
【農業法人ファームはせ株式会社】
★直売所、漬物ギフトのお問い合わせはこちら
営業時間: 9:00~17:30
定休日: 無休
電話番号: 0265-98-2955
URL:
https://www.shunchan-nagano.net/map/kamiina/ina/374.html*この記事の情報は、令和3年3月10日現在の情報です。