紙好き、本好きから愛される手製本工房美篶堂で「製本ワークショップ」 を体験
美篶堂
1983年創業、全国的にも珍しい手作業で製本する本=「手製本」を得意とする会社、「美篶堂」。ここ伊那市の美篶地区には、紙好き、本好きの間で一目置かれる存在の製本会社があります。谷川俊太郎さんや多和田葉子さんの詩集制作に携わるなど、その名は全国的にも知れ渡っています。
畑や民家がのんびりと広がるエリアに建つ工場から、職人さんの手による唯一無二の本が生み出されていくのは、なんだかロマンさえ感じます。今回、そんな歴史を刻む工場のなかで行われた製本ワークショップに伺いました。
手製本の職人技術に想いを馳せて
美篶堂は、「美術製本」と呼ばれる手仕事の製本技術で本づくりをされています。創業者で現会長の上島松男氏が、若い頃に手作業による製本技術を積まれ、その技術を継承し創業。日本でも珍しくなってしまった手製本の本づくりを続けてきました。
明治維新後に始まった日本の西洋式製本業は、第2次世界大戦の後10~20年くらいまでは、職人の手作業によって行われるのがごく一般的だったのだとか。出版社での勤務経験を経て、ライターになった私ですが、製本の現場に立ち会ったことはなく、本の構造に思いを寄せたことがありませんでした。それくらい機械による西洋式製本に疑問を持たず、本に触れてきたのだと、この機会に改めて感じました。
美篶堂では、2003年にオープンした東京のショップ(2020年12月東京営業所として移転)や伊那市の工場で製本ワークショップをスタートしました。その背景には、一般の方との直接 やりとりを通して、もっと製本について知って欲しい、伝えたいとの思いがあったそうです。
製本の工程を知り、本の付加価値だと感じる
製本ワークショップの場所は、美篶堂の工場内。年季を感じる機械、蛍光灯の照明、木の机を目にすると、「物づくりの現場に足を踏み入れているなぁ」とワクワク。
講師をしてくださったのは、現在美篶堂代表を務める上島明子さんです。オリジナルステーショナリーの企画販売、美篶堂ショップ開設、本づくり学校開校、本づくり協会設立と、製本文化の技術存続のために幅広く活動されています。
「今日作っていただくのは、文庫本サイズの角背上製本です。まずは、表紙、見返し、花布(はなぎれ)、しおりを選びましょう」
上製本とは、いわゆる「ハードカバー」のこと。本の部位を説明していただきながら、自分の好きな色を、色合わせを考えながら選んでいきます。
まずは、表紙選びから。厚めのハードカバーで形態も立派だから、どんな用途で使おうかと思いを巡らせます。「日常での気づきの言葉をメモする本にしようか」、そんなことを考えながら選びました。
「では、やってみましょう!」。まずは、「本文(ほんもん)」と呼ばれる本の中身の部分から作り始めました。
選んだ見返しを二つ折に、しおりと「花布」をカット。「花布」とは、本文の上下につける、小さな布を指します。見返しを貼り付けたあと、背側に寒冷紗(かんれいしゃ)と呼ばれる布を貼り付けていきます。続けて、しおりと花布、背紙を貼ります。
ここまで30分ほど。刷毛で糊を付け、ずれないように貼り付けていく作業は、結構集中力が入ります。
「続いて表紙です。糊を変えます。製本用のボンドとデンプン糊と水を1:1:1で緩めています。製本屋さんは、糊を使い分けます」と上島さん。
表紙の裏側に刷毛で糊をむらなく塗っていきます。その上に板紙を順番に置き、圧着させていきます。
表紙づくりまでで、1時間が経っていました。集中しているので、あっという間です。
最終段階は、本文と表紙を合体させます。
「表紙は、本文を守るためにあるので、少し大きくなっています。この出っ張り、表紙と本文の差異のことをチリといいます」。
今回、3ミリずつ差異を付けましたが、ここが難しいとのことでした。上島さんのサポートを受けながら、仕上げの作業に集中していきます。
とても立派な自分だけの本ができあがりました!竹ひごをかませて溝に固定しています。上から重石をのせて一晩寝かせ、翌日完成です。
講座時間は、全部で1時間半。職人さんが作ればもっと早いのでしょうが、それにしても、手製本はこれほど細部まで丈夫になるようつくられていること、そして1冊1冊手間がかかっていることを実感しました。
もっと学びたい方は、本づくり学校へ
美篶堂では、このように製本技術を伝える活動をされています。伊那市での製本ワークショップは、不定期で開催されているそう。他にも、材料を送付してもらって行うオンライン講座もあります。
もっと学んでみたいという方には、1年通じて行う「本づくり学校」があります。基礎科と応用科があり、伊那製本所と東京でそれぞれ開催されているそう。「例年なら、全国から受講者が集まります。本の中身も一緒に作るんですよ」と上島さん。
子ども向けに、県内の美術館から依頼を受けて開催することもあるそうなので、随時チェックしたいなと思いました。
今回の体験で、「物づくりや職人さんの仕事を体験することは、その物の価値を一層実感できる」と感じられました。製本技術の難しさやかかる時間を体感し、さらに製作現場の環境、会社の歴史などの背景を知ると、1つの本に込められている重みを実感として得られたように思います。そして今後も、美篶堂の商品や活動に 注目していきたいなと思いました。
美篶堂(みすずどう)
長野県伊那市美篶に製本所を、東京都新宿区に営業所をかまえる手製本が得意な会社。製本技術で文房具をはじめとするオリジナル商品や自費出版で書籍も作成している。本づくりの技術と文化の継承を目的とした団体、一般社団法人本づくり協会も理事とともに運営。本づくり学校や製本ワークショップの開催、著書の出版など本づくりの魅力を伝える活動にも注力している。著書に『美篶堂とつくるはじめての手製本』『美篶堂とはじめる本の修理と仕立て直し』(どちらも河出書房新社)他。
美篶堂 伊那製本所
【住所】〒396-0111 長野県伊那市美篶6768-2
【駐車場】有
【内容】
・製本体験
お好みの色や素材の紙を選んでいただき、世界で1つだけの本を作りませんか。ブロックメモ(初級)から和装本・絵本製本(上級)まで色々と楽しむことができます。
■実施期間:4~10月
■受入人数:6名~
■所要時間:30分~
■料金:5.100円~
※要予約
東京会場での講座はこちら(Book & Design 東京都台東区浅草2丁目1-14)
美篶堂東京営業所
東京都新宿区新小川町5-9 クラフト孝和1F 本づくりハウス内
電話/fax 03-5946-8817
本づくり学校も開催しています。
・本づくり協会HP
https://www.honzukuri.org/activity/school/
【お問い合わせ】
HP内お問い合わせフォームより
http://misuzudo-b.com/
*この記事は、令和3年11月に公開し、令和5年11月に見直しをしたものです。