みんなの体験記
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“伊那谷×自転車”で地域を体感、サイクルツーリズムの動き
谷であっても広大な谷、伊那谷
 “伊那谷”とはじめて聞く人は、「谷」ということばからいわゆる「峡谷」の姿をイメージする人も多いそうです。しかし伊那谷は、迫る山々の間に川が流れ、わずかな平地に集落が点在する……というような「谷」の地形ではありません。

 長野県の中央から南部にあり、南アルプスと中央アルプスに挟まれた、東西10キロ、南北80キロ(*ここでは、上伊那・下伊那も含めた伊那谷の南北キロを指します。)の広大な谷は、その広さから「伊那盆地」「伊那平」とも呼ばれていることは、意外と知られていないかもしれません。

 天竜川に沿って南北にのびる一帯は平地部分が広く、天竜川を底辺として、なだらかな丘陵地形が徐々に高度をあげ、二つのアルプスの山の裾野へと繋がっています。
伊那谷を自転車で走る魅力
 突然ですが、私は、伊那谷(ここでは上伊那のことを言うことにします)に暮らしはじめて3年の移住組です。地元の名古屋では、自転車(ママチャリ)は、日常的に使っていました。駅や職場、買い物に行くときの手段。それが、伊那谷に来てからは、車生活になりました。運動不足にもなり、自転車に乗りたいなぁ、と思っていたときに、サイクリングツアーに参加しました。自転車(Eバイク)をレンタルして走ってみると、その気持ち良さに一瞬で惚れてしまったのです。

 もともと、車で走っていても気持ちよい伊那谷。でも、自転車で走るのは格別。「なんと気持ちいいのだ!これは多くの人に体感してほしい!」という想いがもくもくと湧いてきます。「サイクリストだけでなく、私のような『自然が好き、旅が好き』、というだけの人にも!」と。

 自転車旅の何にそれほど魅了されたのかというと、次の3点。①止まりたいところで止まれること、②風を肌で感じられること、③車では進めない細い道や裏道を走ることができること。

 これらに、走る季節の違い、通りかかる時間の違いがかけ合わさると、無限大に伊那谷の新しい発見ができ、新しい感覚に出会えるのです。
 伊那谷(上伊那)は、「観光地」と言える場所はわずかだと言ってもよいかもしれません。南アルプスと中央アルプスの登山口、中央アルプス駒ヶ岳ロープウェイ、コヒガンザクラの名所であり古い城下町高遠、ヒカリゴケと早太郎伝説で知られる光前寺、1万2,000本のもみじのもみじ湖あたりでしょうか。観光地ではありませんが、その代わりに、地域の暮らしを大切にしてきた人々の営みを多く感じられます。
 ここで少し、自転車に乗って、風をきって走っているイメージをして読んでみてください。

 広大な谷のなだらかな土地に、野菜、米、果樹、酪農などの風景が広がる。南アルプスと中央アルプスの見え方も、場所によって随分と変わる。広さだけを感じるかというと、そうではない。馬による物資の行き来があった伊那街道(三州街道)が、その面影を覗かせる。

 ふと気がつくと、集落の中にいて、里山の風景がある。川の顔も変わる。天竜川一つでも、小さな流れから、河原のある流れ、急な段丘での流れ、へと変わっていく。アルプスから流れてくる川、里山を穏やかに流れる川──。
 伊那谷を走れば、それぞれの場所でそれぞれの風景に出会えます。

 また、自転車は、地域の暮らしにより近づける移動手段であり、風景に加えて、伊那谷らしさを伝える「暮らし・歴史・人」を体感・交流できるプログラムを設計することもできると思います。例え ば、その土地に暮らす人を巡るプログラムはどうでしょうか。

 ある人とは会話を楽しみ、ある人とは一緒に郷土食を作り、ある人とは収穫体験を…と、考えているだけでワクワクしてくるのは私だけでしょうか。旅が好きな人は、その土地「暮らし・歴史・人」に出会うことを楽しみにしている人も多いと思うのです。特に、これからの観光は、観光地を巡るものではなくなっていく傾向もみられると思いますし、伊那谷以外の地域との差別化を図ることのできる旅行形態となっていくことを期待しています。
上伊那のサイクルツーリズムの動き
 長野県全体をみると、広い長野県の魅力を体験できる一周ルート「Japan Alps Cycling Road」を作っています。このルートの一部は、上伊那を通っており、サイクリスト向けの長距離コースです。

 上伊那では、市町村ごとに、ルートづくり、レンタル事業をはじめる事業者が生まれるなどの動きがあります。上伊那の北側に位置する、辰野町・箕輪町・南箕輪村で組織する上伊那北部観光協会連絡協議会では、令和2年度に、3町村を繋ぐサイクルマップ(天竜まったりライド)を作成。また、令和2年度から令和4年度にかけて、短距離のサイクリングツアーやロゲイニング(地図上のチェックポイントを制限時間内に巡ってポイントを集めて得点を競うゲーム)を開催し、初心者から参加でき、自転車に乗ることを楽しめる企画を作っています。
長野伊那谷観光局でのサイクルツーリズムの動き
 長野伊那谷観光局は、令和2年度より、長野県と連携し、上伊那全域としてサイクルツーリズムの受け入れ整備を目指し活動を進めてきました。 

 初年度は、サイクルガイドマップ(6ルート)の作成、令和3年度は、受入体制の充実に向けたサイクルツーリズムガイド養成講座の開催、令和4年度は上伊那周遊ルートの作成とガイドのスキルアップを実施。その結果、ガイドのスキル習得と共に、サイクルツーリ ズム関係者のよいチームづくりへと繋がりました。

 継続的に参加してきたメンバーも多く、コミュニケーションも活発に。それぞれの暮らすエリアの道や店舗、アクティビティなど情報交換ができ、より深く伊那谷のことを知ることができたのも、大きな成果の一つだと感じています。
“伊那谷×自転車”で地域を体感してもらうとき
 ガイドの養成、マップの完成など、伊那谷にもサイクルツーリズムの受入体制が整いつつあります。いよいよ、多くの人たちに“伊那谷×自転車”で地域を体感してもらうときが近づいてきました。

 南アルプスと中央アルプスの二つのアルプスと天竜川が流れる広大な風景と豊かな自然、そこで育まれてきた郷土の文化・歴史・暮らし・食、人との出会い……。多くの伊那谷の魅力を自転車と掛け合わせることで、どんなサイクルツーリズムが生まれるのでしょうか。どんな感動をしてもらえるのでしょうか。これからの伊那谷のサイクルツーリズムに期待してください。

【インフォメーション】
◆ローカルサイクリングガイド厳選!伊那谷マップ 
https://www.inadanikankou.jp/upage/id=1457


◆自転車冒険地図
https://www.inadanikankou.jp/upage/id=1847
*この記事の情報は、令和5年2月現在の情報です。
みんなの体験記ライター
投稿者太田清美
年代40代
趣味自然の中にいること、町歩き、畑仕事、季節の手仕事
自己紹介2020年4月、名古屋から箕輪町へ。自然の近くで、季節を感じながら、山々を眺めたり、野菜づくりをしたり、自分の暮らしのカタチを追いかけています。伊那谷の風景、営み、人、文化、一つ一つを味わっているところです。体感したことをいろんな人たちと共有していけると嬉しいです。