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一面の「ピンク色のじゅうたん」は圧巻!箕輪町・赤そばの里を訪ねて
里が赤く染まる地
 長野県のほぼ中央に位置し、南アルプスと中央アルプスに挟まれた伊那谷と呼ばれる地方の北部にある箕輪町。

 夏の暑さが少し和らぐ9月中旬から2、3週間ほど、山に囲まれた緩い傾斜地が、一面のピンク色に染まる「赤そばの里」があります。

 昨今では、この光景をひと目見ようと県内外から多くの方が訪れる、人気のフォトスポットに。この景色をさらに楽しんでいただくべく、地元の人たちが運営する「赤そばの里祭り」が3年ぶりに開催されると聞いて、訪ねてみました。

 赤そばの里へは、特設駐車場に車を停め、林間をゆっくり10分ほど歩いて向かいます。森の中の坂を登った先に現れたのは、一面の赤そばの花畑。その広さはなんと、約4.2ヘクタール。坂を抜けた私たちの息を切らす間もない、感動の光景です。

 抜けるような青空と、深く包みこむような緑のなか、儚げに咲く一つひとつの細い花たちが群集してその地を覆う様子は、街からほど近い場所であることを忘れてしまうほどの迫力です。
 開花を予想し、この場所で約3週間開催されるのが「赤そばの里祭り」。

 会場では期間中、地元農産物の販売所のほか、そば処「古田の里」がオープンしています。地元の方が蕎麦を打ち提供されるお蕎麦は、土日160食、平日は70食ですが、11時のオープンにはすでに列ができ、お昼には売り切れることも。私もシーズン初めに訪れた時はすでに売り切れていたので、翌週に再度チャレンジして、「赤そばのざるそば」をいただくことができました。

 赤そばですが、麺は赤いわけではなく、茹で加減がよくコシがあり風味のしっかりしたおそばを美味しくいただき、ポットに用意された蕎麦湯もごくり。
 また、販売所では、赤そばの「そば粉」がありました。伊那谷でよく食べられている「蕎麦ガレット」にしようかなと、購入してみました。
「赤そば」栽培のはじまりは、地域の課題解決策から
 しかし、なぜこの場所で赤そばが栽培されるようになったのでしょう。そのことを理解するためには、昭和の時代にまでさかのぼる必要があります。

 諏訪湖を源流とする天竜川の雄大な流れと、そこに流れ込むたくさんの支流が存在する、水のまち・箕輪町。絶えることのないその流れは河岸段丘を大きく浸食して、この土地の特徴である「田切地形」を形成し、その中で、集落や農地は発展してきました。

 その一つ、町の西部にある上古田区の金原地区は、中央アルプスを背後に控えた標高約900mの集落。周辺に耕作された農地では桑・そば・トウモロコシ等の栽培がおこなわれ、“金原長者”が出たと言われるほどの肥沃な土地でした。

 しかし、昭和中期になると、耕作地はイノシシやシカなどの食害が深刻に。農業が立ち行かなくなり耕作放棄地となっていきます。

 この状況を受け、平成9年から地域では耕作放棄地の活用を開始。それこそが、赤そばの栽培だったのです。

 1997年頃、赤そば「高嶺ルビー」の栽培開始当初には、そのルーツを訪ねようと、関係者で遠くネパールまで出掛けたこともあったとか。

 ちなみに、使用している品種は、ヒマラヤに咲く赤そば品種を信州大学教授とタカノ㈱が共同で品種改良した「高嶺ルビー」に、より鮮やかな花を咲かせるよう改良を加え、誕生した「高嶺ルビー2011」。長野県が誇る大学と企業が苦心の末開発した信州ゆかりの品種なのです。
美しき光景を支える、地道な手作業
 東京ドームを少し小さくした位の広さにあたる4.2ヘクタールの畑での赤そば栽培は、地権者が主体となり組織化された「中箕輪そば組合」のみなさんの手で栽培されてきました。一面のピンク色のじゅうたんの噂はたちまち広まり、メディアでも毎年恒例のように報道される人気に。「赤そばの里祭り」も高齢化した地権者だけでは対応しきれず、現在はこの地区のメンバーで組織する「古田の里赤そばの会」が管理・運営をしています。

 赤そばまつりの準備は、花が咲くずっと前から始まっています。花の時期以外はほとんど人が入ることのない道だけに、土砂を搔き足元を整えたり、橋には手作りの柵を用意したり、赤そばをゆっくりと眺められるようにベンチを修復したり……。この祭りに思いを寄せるみなさんの地道な手作業によって、安全で楽しいお祭りが支えられているのです。
 こうした事前準備やまつりの運営は、定年を迎えた中箕輪赤そば組合のメンバーの手で行われてきました。しかし、60歳定年を過ぎてもそのまま働く人が増えたり、地区に住む若者も離れたりと、ここにも高齢化の課題は押し寄せています。さらに20年以上の時を経て、度重なる異常気象も、一面の花の景観維持をさらに難しくさせているのだとか。

 「でも、来てよかったと思ってもらいたいから、新しい取り組みも考えているんです」と、今年会長を務める押野光さんが話してくれました。

 赤そばの里まで歩くのが困難な方のために、町から「電動車いす」を手配し無料で貸し出しを行ったり、赤そば畑の中に入って写真を取れるように橋を作り、「スマホ撮影スポット台」も手作りして初めて設置。

 「先のことはわからないけど、今できる最大限のおもてなしをしたい。ここは、もみじ湖に引けを取らない観光スポットだから」。そう話す押野さんの、さわやかな笑顔が印象的でした。
 この運営は地域のボランティアで行われていますが、里への入口に「協力金箱」がありました。箱の横に立てられた看板には、「施設維持管理にお一人百円ほどご協力ください」の文字。この整備された里と、見事な景色に震える心を想うと、百円では申し訳ないと思ってしまい、私はいつもその気持ちの分を協力金箱に入れることにしています。
地ビールの登場
 帰り道、箕輪町の農産物直売所「ファームテラスみのわ」へ立ち寄りました。目的はこれ!赤そばの里の実を使ったクラフトビール(地ビール)購入です。地元の特産品を活かして町の新たな名物にしようと、町内のレストラン&カフェ’やまびこテラス’が製造し、販売を行っているもの。ほんのり蕎麦の風味を感じる珍しいクラフトビールです。

 初秋のこの季節は、まだ暑さを感じる日もあります。運転しない方は、ここで飲むのもおススメです。
 今年は天候のおかげで開花時期が長く、時には車で、時には自転車でと何度も訪れることができました。SNSでも連日のように「9月に見られる絶景スポット」「一度は行きたい秋花スポット」「全国のピンクの絶景」などに「赤そばの里」の記事が賑わせていました。

 林を抜けると突然現れる「ピンク色の絨毯」。期間限定でライブカメラも設置され、You Tubeで見頃を確認できます。澄明な秋空のもとに広がるピンク色の絨毯、ぜひ訪れてみてくださいね。

■赤そばの里
〒399-4601 長野県上伊那郡箕輪町大字中箕輪
箕輪町観光協会電話番号 0265-79-3111(箕輪町役場内)

【行き方】赤そばの里へ向かう場合、カーナビに登録するには「箕輪西小学校」電話番号0265-79-2423を登録します。箕輪西小学校校庭の北側の道を西に進んでください。200mほど西に進んだ最初の交差点を右折すると赤そばの里駐車場があります。お帰りの際は、駐車場北側の道を東に進み、県道203号線に出てお帰りください。

期間中は一方通行にしています。ぜひ順路を守ってお進みください。

■ファームテラスみのわ(赤そばビール販売)
〒399-4601
長野県上伊那郡箕輪町大字中箕輪3730-186
営業時間 9:00~18:00
電話番号 0265-70-5230
https://www.minowa-terrace.jp/



■やまびこテラス(赤そばビールが飲める店)
〒399-4601
長野県上伊那郡箕輪町大字中箕輪3730-156
営業時間
ブランチ&カフェ /9:30~11:00 LO
ランチ/11:30~
ランチ&カフェ /14:00~17:00
ディナー/17:00~20:00 LO
定休日:月曜日・不定休
TEL.0265-96-0129

*2022年9月現在の情報です。
みんなの体験記ライター
投稿者ともたろう
年代40代
趣味ものづくり、イベント企画
自己紹介伊那谷で生まれ育つ。ほどほどの田舎で、仕事・子育てしてきた経験や想いを、より楽しく暮らす提案として発信していけたらいいなと思っています。