みんなの体験記
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伊那谷の冬景色
厳しい寒さの中で育まれる、伊那谷の冬景色。
澄み切った空気のなか、各地では荘厳ささえ感じる光景に出逢えます。
地域の人々にも静かに愛され、語り継がれてきた冬ならではの景色の数々をご紹介します。
◆小野のシダレグリ自生地(長野県上伊那郡辰野町)
辰野町観光協会提供
辰野町の北部に位置する小野エリア。ここに自生する「シダレグリ」は、枝が傘のような形に垂れ下がる独特の姿から「栗の実に手が届くよう弘法大師が枝を垂らしてくれた」「天狗が栗を食べるとき枝に腰をかけたことで垂れた」などの言い伝えで地域の人々に知られています。JR中央本線小野駅から車で10分ほどの場所にある「小野のシダレグリ自生地」には、同様の樹型の栗の木約900本以上が群生。大正9年に「小野村枝垂栗自生地」として国の天然記念物に指定され、昭和60年には辰野町の町木にも選ばれました。

まるで今にも動き出しそうな不思議な枝の形が最も特徴を表すのは、冬。葉が落ちて、独特な樹形があらわになり、そこへ雪が積もった様子は、「シダレグリの雪化粧」と言われ、「天下の奇観」と言われるのも納得の迫力です。多くの写真家がその姿を収めようと撮影に訪れるとか。古くから地域の人々にに大切に守られ、歴史を感じる「しだれ」の姿は、次世代へもつないでいきたい冬景色です。

*シダレグリ自生地までの道は除雪が行われません。十分ご注意ください。

シダレグリ自生地
住所:長野県上伊那郡辰野町小野5983-1
問い合わせ先:辰野町観光協会(0266・41・1111=辰野町役場内、平日のみ)
◆上古田スケート場(長野県上伊那郡箕輪町)
「スケート場」という言葉を聞くと、昔懐かしい光景がふっと瞼の奥に浮かびます。
靴下を二枚重ね、かじかむ手で必死に紐を結んではいたスケート靴。スーッと滑る一歩が長くなり、リズムがつかめるようになったときの爽快感。リンクを何周もし、だんだんと水を含んだウェアがどっしりとした重さや、気が付くといつの間にか高い所へ昇った太陽に照らされた氷面、友人たちもしわくちゃの顔も──。スケート場は、伊那谷に暮らす私にとって、体で覚えている感覚がある風景のひとつなのです。
今回ご紹介する「上古田スケート場」は箕輪町にあり、上伊那では唯一の天然リンク。眺望も素晴らしく、晴れた日は南アルプスや八ヶ岳を眺めることができます。“天然”のリンクを守るために、地域の方々が大切に管理されており、毎年心待ちにしている住民の方々に愛されています。

スケート場に安定的に水を引くため、水源からつながる水路が落ち葉で詰まらないよう気をかけて掃除をしたり、スケートを楽しむ人が自ら、使うスケート靴を大切に直したり。準備しているすべてのことが町の人で支えられている様子は、リンクから見える風景のなかにも人の温かさを感じさせてくれるようです。
人の手と、寒さが作り出す上古田スケート場、ここには町の思いやりを感じる情景があります。

上古田スケート場
住所:長野県上伊那郡箕輪町大字中箕輪上古田6947-1
期間:1月~2月頃 土・日・祝日 (見学だけなら平日も可)午前7時から10時まで ※ただし、凍結している時だけです。 
問い合わせ先:オープンの可否に関する当日のお問い合わせ:電話:0265-79-0152、平日は箕輪町文化スポーツ課 TEL:0265-70-6601
◆寒天天日干し(長野県伊那市)
冬、伊那市は特に朝晩がきりりと冷え込み、昼間は寒気がほんの少し和らぎます。この厳しい寒暖差を利用して生み出されるのが「寒天」。伊那市東春近にある「小笠原商店」の敷地内では、寒さが厳しいここの時期に、伊那谷冬の風物詩のひとつ「寒天天日干し」の姿が今も見られます。

小笠原商店は、大正5年創業の老舗。代々受け継がれてきた職人技によって育まれる質の高い天草や南アルプスの水によって、舌触りの良い食感の寒天になります。天日干しは寒天づくりの工程の最後の仕上げで、天草を煮詰め、ところてんのような太さで突き出し、よしずへ並べます。

外気によって凍らせて、太陽の光で溶かし、そして伊那谷の風でゆっくりと乾燥させること、約2週間。天気を見ながら干し、雨や雪に変わりそうな時は取り込む。そしてまた晴れてきたら並べる。天竜川近くで列をなして寒天が並ぶ景色は、自然を生かし、ひと手間を大切にした製法によって守られてきたもの。機械によってできることが増えてきた今。この先、もっと未来まで残しておきたい原風景です。

有限会社小笠原商店
住所:長野県伊那市東春近田原6301-1
天日干し期間:12月~2月
問い合わせ先0120-31-2364(受付時間 月~土曜日10:00~16:00)
みはらしファーム せいの神(長野県伊那市)
南アルプスを望む高台にあるみはらしファームでは毎年小正月のころ、高さ南信地区最大級のやぐらを組み、どんど焼き「せいの神」が行われます。「せいの神」とは、元旦の朝に御来光とともに山から来る〝歳神様(さいのかみ)〟がなまったもの。みはらしファームでは、伝統行事を昔からある呼び名で呼び、次の時代へと受けついでいます。首をぐぐぐと伸ばすほど見上げるやぐら。このやぐらは、この地域近くから切り出した竹を円すいのような形に組み、地元の人が持ち寄ったしめ飾りや、門松、役目を終えただるまや、書初めを積み上げたもの。

年が明けて久しぶりに合わす顔ぶれに「今年もよろしくね」「寒いけど元気にしてた?」と地域のふれあいがあるのもこの風景が作り出す温かな時間です。いよいよ火がつき、風を巻き込みながら立ち上る煙。ときおり「ぱん!ぱん!」と竹がはぜ、短く強い音が響きます。子どもたちが驚き声をあげはしゃぐ姿や、ごおごおと燃える炎のゆらめき。一年に一度だけのこの光景〝どうかこの一年健康でありますように〟願いを込めて。新しい一年の物語がはじまる序章の景色です。

みはらしファーム せいの神
住所: 長野県伊那市西箕輪3416-1
期間:1月中旬
問い合わせ先:みはらしファーム公園事務所 0265-74-1807
みんなの体験記ライター
投稿者伊東香菜
年代30代
趣味展示会めぐり・読み聞かせ・音訳ボランティア・影アナ
自己紹介伊那市生まれ。小4から演劇にはまり、高校卒業後は劇団養成学校へ進む。現実を受け止め帰郷。現在は文章を書くこと、声で伝えることを大切に活動中。三児の母。
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