其の四 信州を食べるならここ!5週連続ぶっとおしそば三昧
そば好きはここに集まれ!
信州はそばどころ。どの地域に行っても「ここの名物はそば!」「うちの地域が一番うまい!」と判で押したように言われます。実際に、どこの地域のそばも美味しいです。これホントの話。
それでも「こういうイベントはめったにないだろう!」と言いたくなるのが、伊那谷が誇る「5週連続ぶっとおしそば三昧」イベント。毎年、新そばが出回る10月の中旬から、毎週々々、5週間にもわたって、伊那谷の各地で信州そばを食する大イベントが続きます。
そば好きの方はぜひ一度、このぶっとおしイベントを訪ねてみてください。秋の伊那谷の名所めぐりとセットにして楽しむのがおすすめ。伊那谷泊もおすすめ。昼はそばイベントで新そばを楽しみ、夜は、伊那谷の飲み屋街で郷土の味をつまみに地酒を飲む―なんて至福の楽しみかもしれませんよ。
奥山で開かれる食の一大イベント=行者そば祭り【10月中旬・土曜日開催】
ⓒ伊那市観光協会
先陣を切るのが、伊那市の小黒川上流最奥部・内ノ萱地区で行われる行者そば祭りです。伊那市内の自治区の一つ荒井区が開催する地域の食のイベント。ことのはじまりは他所に宣伝されることもなく、文字通り荒井区の人々が集って、そばを打ち、茹で、清流で締めて新そばを味わった、文字通り地域の五穀豊穣感謝祭のようなものでした。しかし、美しい山林と小黒川の清流が作り出す風情の良さ、何より地域のそば打ち名人たちが打つそばの味で人気が沸騰し、今では「1日で1700食近くが出る」と言われる一大イベントに成長しました。
運動会の時のような大型テントの下で大勢の人が並んでそばを打ち、薪で湯を沸かした大釜で茹でられ、ホースで引かれた谷川の水で締められるという、野性味あふれる、しかもなんとものどかな作業風景。広場中空を飾る万国旗、はためく「荒井区」の旗、「行者そば祭り」ののれん、そして大きな声の会話やにぎやかな笑い声など、「地域の食のイベント」感は今でも満載です。これぞ「ハレの日」。お子様から年配の方まで、世代を超えて楽しめるそばのイベントです。
「行者そば」の名称は、いまからおよそ30年前、このそば祭りを盛り上げるために地域の住民の方が考え出したものです。ソバは、一般に奥山の峻厳な土地で栽培されることが多いですが、そのような土地は、かつては修験道の霊場とされてきたところがほとんどです。中央アルプス駒ヶ岳もかつては修験道の霊場で、伊那谷からは内ノ萱を入口にして行者は山に登って行ったのでした。行者は、火を使わなくても食べることができる「そば粉」を携行食として持ち歩いていたとの伝があり、これらのことをヒントにして、「駒ヶ岳に修行に来た行者が内ノ萱地区の住民にそば栽培の方法を伝えた」という「行者そば伝説」を語る人もいます。
この伝説を信じるか信じないかはともかく、ここで食べられるそばの味が絶品であることは間違いありません。ぜひ一度は訪ねて、そばと伝説を楽しんでみてください。そば600円。辛つゆそば600円。他に五平餅や豚汁なども。
※詳しくは伊那市荒井区事務所TEL:0265-72-2229
伊那谷の大パノラマが借景-信州伊那 新そば祭り【10月中下旬・土日開催】
ⓒ伊那市観光協会
続いて10月中下旬に開催されるのが、信州伊那新そば祭りです。伊那谷の扇状地の広がりを一望できる絶景の地・伊那市西箕輪の農業公園みはらしファームが会場。西には仙丈ケ岳を中心に連なる南アルプス、来たには遠く八ヶ岳連峰も望めます。ここから見る伊那谷は、「谷」というよりは「平」という感じです。そんな場所で食べる新そばは、まさに信州の秋の味。みはらしファームは日頃から「いちご食べ放題」などの農業体験が楽しめ、農産物直売所・バイキングレストラン・立ち寄り湯・宿泊施設もある大型農業公園で、駐車場をはじめ各種施設は完備しています。
公園の中に「名人亭」というそば打ちの体験場も兼ねたそば店があり、ここの「名人」たちを中心に、地域の腕に覚えのある人々がそばを打ち、打ち立て、茹で立てを供する大イベントです。二八そばや十割そばを食べ比べる利きそば大会=「ソバリエコンテスト」や、アマチュアそば打ち世界大会のチャンピオンによるソバ打ち披露、また来場者自身によるそば打ち体験などもあります。
新そばを中心にして、野菜や果物、豆腐や漬物、運が良ければ松茸…秋の実りをいろいろ楽しめるところが、このみはらしファーム新そば祭りの魅力です。
伊那市やJA上伊那が公園運営を支えていることもあり、新そば祭りにあわせて有名歌手などを招いた歌謡イベントなども開催され、秋の青空の下で一日中楽しんでください。詳しくはみはらしファーム事務局TEL:0265-74-1807
山麓一の麺街道フェスタin伊那【11月初旬・土日開催】
3週目、秋も深まり11月初旬に開催されるのが「山麓一の麺街道フェスタin伊那」。伊那市高遠町にある「天下第一の桜」で有名な高遠城址公園に特設会場が設置されます。この催しは、南アルプスの懐に抱かれた伊那市高遠町、そこから中央アルプスを越えた木曽町、さらに北アルプスを越えた岐阜県高山市が連携して、3つの地域を結ぶ国道361号の沿線の地域活性化を目指して行なっています。
伊那の「高遠そば」と「ローメン」、木曽の「すんきとうじそば」、高山の「高山ラーメン」などの「名物麺」が一堂に会し、この祭りを訪ねれば一度に食べることができるという趣向です。「食べきれないでしょ」という方用に、小盛りセットもありますから安心してください。
「高遠そば」は、伊那谷に古くから伝わる「辛つゆそば」(大根おろし・焼きみそ・鰹節などで食べる盛りそば)の別名で、この呼び方は江戸時代初期に高遠藩の藩主を務めた保科正之公が(第三代将軍徳川家光公の弟)、山形藩主を経て、会津藩主となった折に、高遠を懐かしんで使われた名前と言われています。正之公の時代から約360年を経て、平成10年頃に会津から〝逆輸入〟した歴史ある名称です。
木曽の「すんきとうじそば」は、木曽地域伝統の無塩漬物「すんき」を入れたアツアツの汁に、「とうじかご」と呼ばれる湯煎用の小さな竹籠に入れた一口サイズのそばを浸して温めて食べる木曽地域独特のそばの食べ方です。この信州独特のそばの食べ方が両方一緒に楽しめるのは魅力。伊那谷名物「ローメン」(詳しくは別稿をご覧ください)、高山の名物「高山ラーメン」まで、思う存分、国道361号沿いの食が楽しめます。有名歌手を招いた歌謡ショーなども用意されています。
※詳しくは山麓一の麺街道フェスタ実行委員会TEL:0265-78-4111
秋の高遠で新そばともみじを味わう―高遠そば新そば祭り【11月初旬・1週間開催】
ⓒ伊那市観光協会
土・日の2日間だけでは物足りない!そんな方にお勧めは、この高遠そば新そば祭り。11月初旬の1週間にわたり伊那市高遠町の高遠城址公園内高遠閣を中心にして開催されます。開催期間が長いので、ウィークデーに信州高遠そばを楽しみたい方や、紅葉がきれいな高遠城址を見学し、高遠の城下町を散策し、地区の温泉に入って、一泊して……なんて考えている方にはもってこいの食のイベントです。
ここでも目玉は、先に述べた「高遠そば」。地域産の玄そば(そばの実のことを「玄そば」と呼びます)を材料にして、地域の人たちが手打ちしたそばです。
会場として使用される高遠閣は、高遠城址を訪ねる観光客の休憩施設として昭和11年(1936年)に建設された由緒ある建物で、外観は当時の歌舞伎座を模したと伝わる必見物です。そんな場所をステージにして、地域の人々が打ったそばを食べるのも楽しいものです。
高遠城址は春の桜で有名ですが、秋・11月のこの頃になると、一帯の紅葉もみごとなもの。紅葉まつり菊花まつりも同時開催されており地域の商工会による土産品の販売なども行われます。
※詳しくは、一般社団法人伊那市観光協会TEL:0265-78-4111
スキー場で食べる新そば&きのこ 西春近新そば&きのこ祭り【11月中旬・土曜日開催】
ⓒ伊那市観光協会
5週連続ぶっとおしそば三昧の最後を飾るのが、伊那リゾートスキー場を舞台にした西春近新そば&きのこ祭りです。会場になる伊那スキーリゾートのレストランなどを運営する長野伊那きのこ王国が地元東春近地区の人々ともに開催しています。スキー場のレストランを会場に、春近そばの会のメンバーが打ったそばを提供します。併設されたきのこ園で採れた栽培きのこを使った天ぷら・味噌汁・ごはんなどもあり、家族連れで楽しく秋の味覚を味湧くことができます。
2019年には伊那市商工会議所女性会が「信州そば切り音頭」を披露するなど、地域で観光客と楽しむ「お祭り」感たっぷりのイベントです。
※詳しくは、伊那スキーリゾートきのこ王国TEL:0265-73-8855
以上見てきたように、伊那谷では10月下旬から5週連続で「そば」をメインにしたイベントが開催されます。詳細は、各事務局にお問い合わせいただき、新そばを秋の伊那谷と共におなか一杯お楽しみください。