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其の一 信州そば、食べるなら伊那谷!
伊那谷の「そば食」文化をナビゲート
ⓒ伊那市観光協会
護られし実りの國=伊那谷には、〝そば食〟の文化が息づいています。
そばは長野県を代表する食文化の一つですが、その中でも伊那谷のそばは、まだ「観光化」の波にさらされておらず、地域の人々の生活に結び付いた「無垢の空気」感があふれていることが特徴といえるでしょう。そばを「ハレの食」として食べる風習、様々な伝承と結びついた滋味深い食べ方、材料としてのソバの栽培に関わる地域性……これらの視点で掘り下げていくと、伊那谷の〝そば食文化〟の奥深さを知ることができます。そんな伊那谷のそばの旅をナビゲートしましょう。
「ハレの食」と「ケの食」
ⓒ伊那市観光協会
予備知識としてまず「ハレの食」について。
農山村部では古より、冠婚葬祭など地域や家族・親族にとって大きなイベントがある日を「ハレの日」、日常的な労働や暮らしの営みが静かに続く普通の日を「ケの日」と呼んで区別していました。「ハレの日」に手間をかけて用意し、多くの人々が揃って食べるのが「ハレの食」で、ソバ粉を練って、麺状に切り、それを茹でて、汁につけたりして食べる「そば(そば切り)」はその代表でした。
これに対して「ケの日」に食べる「ケの食」は、手間をかけずにさっと食べる日常食で、同じようにソバ粉を材料にしたものでも、ソバ粉にお湯をかけてこねて食べる「そば搔き」や、それを火にかけて焼いた「そば焼き」は「ケの食」の代表になります。
いまでこそ、そば(そば切り)は信州のあちらこちらに店もあり、気軽に食べることができますが、昭和の初め頃までは、めったに食べることのできない「ハレの食」だったのです。
地域の祭りとして「そば」を食べる風習
「ハレの食」としてそばを食べる風習は、伊那谷各地で開催される「そば祭り」として現在に継承されています。地域の人々や遠方からの観光客の皆さんが集い、自ら打ったそばをみんなで食べるという形です。北の方から主なものだけ並べると・・・

箕輪町
赤そばの里花祭り 上古田 赤そばの里 上古田公民館【9月下旬】

伊那市
行者そば祭り 荒井区内の萱 内の萱スポーツ公園【10月中旬】
信州伊那新そば祭り 西箕輪 はびろ農業公園みはらしファーム【10月下旬】
山麓一の麺街道フェスタin伊那  高遠町高遠城址公園【11月初旬】
高遠そば・新そば祭り 高遠町高遠城址公園高遠閣【11月初旬】
西春近新そば&きのこ祭り 西春近伊那スキーリゾート大レストラン【11月中旬】

飯島町
飯島町新そば祭り 飯島町文化館・そば道場ななくぼ等【11月中旬】

秋の食のイベントはまさに「そば祭り一色」と言っても過言ではありません。(※特集:伊那谷のそば―4「信州そば食べるならここ!5周連続ぶっとおしそば三昧」もご参照を)
さらに注目は、これらの食べるそばは、地元産のそば粉を使った手打ちそばで、しかもそのそばを打つのは、地元のそば店の方はもちろん、当該地域の農家をはじめ一般市民の中の「そば名人」ばかり。まさに地域をあげた「ハレの日」=そば祭りなのです。

秋の伊那谷を訪ねて、各地のそば祭りに参加してみてください。手打ちそばのおいしさだけでなく、伊那谷の地域の人々の素朴さ、人懐っこさにも触れあえることでしょう。
※詳しくはイベント情報をご参照ください。この他にも、赤そばの花が咲いた景観を楽しむ「赤そば花祭り」も、宮田村や駒ヶ根市で開催されています。
「あそこが美味い!」知る人ぞ知る「そば店」も多種多様
もちろんイベントだけでなく、常設の「そば店」も多数あり、美味しいそばを提供してくれています。伊那市や伊那市高遠町、また駒ヶ根市などの市街地に古くより店を構えた名店は、地元客や観光客の皆さんに比較的リーズナブルに手打ちそばを食べさせてくれています。辰野町・箕輪町・南箕輪村・宮田村・飯島町・中川村の各町村も、市街地の商店街には必ずそば店があり、地元の人々に愛されています。麺の太さや色合い、香、汁の味などに個性があり、はしごして食べ比べるもの一興です。

今ご紹介した、家が立ち並ぶ「町(まち)」に対して、田園や山林が広がる農村山間地のことを、伊那谷では「在(ざい)」と呼びます。近年、この「在」にも、通がお目当てにするそば店が増えています。中央アルプスの遠景が素晴らしい駒ヶ根市中沢地区の店、深い森と苔の緑に包まれた宮田村中田切川上流の店、棚田を一望する伊那市の長谷中尾の店、のどかな田舎の古民家を使った伊那市荒井区内の萱の店、木曽につながる権兵衛トンネルの入り口の店、辰野町の横川地区の店……等、首都圏・東京圏から「この店」を目指して遠来客が訪れる隠れ屋的そば店を訪ねてみるのも楽しいものです。ぽつんと一軒家のようなお店で、店主自慢の手打ちそばをつるつるっとすする。そんな体験を気軽にできるのも伊那谷の魅力です。