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其の三 知ろう!伊那谷のソバ栽培
ソバの栽培が盛んな伊那谷ですが、料理としてではなく、植物、作物としてのソバがどんな風に作られているのかまで知っている人は少ないかもしれません。信州大学農学部、松島憲一准教授に、伊那谷のソバという作物とその栽培についてお聞きしました。
伊那谷を埋める白い花
9月、伊那谷のソバ畑では可憐なソバの花々が咲き誇ります。

ご存じ、蕎麦の原料となるソバの種子。「信州そば」で知られる長野県は、北海道に次いで全国2位のソバの生産量を誇ります(令和元年・農林水産省調べ)。そしてその長野県の中でも、ここ伊那谷はソバの栽培が非常にさかんな地域なのです。夏の終わりから秋にかけて、そこかしこの畑で白くて可愛らしいソバの花々を見ることができます。
そばの歴史
そもそも日本では、縄文時代から育てられていたという長い歴史を持つソバ。稲作に向かない山間地でも収穫することができるため、太古の昔から主要な穀物として育てられてきました。

現在のように麺として食べる蕎麦文化の発祥がいつ、どこであったのかについては諸説ありますが、全国的に広まったのは、江戸時代からと言われています。江戸っ子と蕎麦の組み合わせは、落語などで耳にしたことのある人も多いでしょう。
ソバの品種いろいろ
伊那谷で最も多く栽培されているソバは、「信濃1号」という品種で、昭和19年に長野県で作られたものです。比較的子実が大きく多収なため、長野県を中心に日本各地で栽培されています。伊那谷では、8月上中旬に種を播き、10月に入ってから収穫期を迎えます。また、一部で5月に播いて7月頃に収穫する「しなの夏そば」という品種も作られています。

さらに、栽培規模は小さいものの、「入野谷在来」という品種も育てられています。この「入野谷」とは伊那市の長谷(一部高遠も)にあった地名で、これは、その地域の在来品種なのです。一度は栽培が途絶えてしまっていたのですが、長野県野菜花き試験場で発見されたわずかな種子から、在来種復活のための取り組みが始まり、数年前から、その長谷地域で栽培されるようになりました。限られた貴重なソバのため、現在、伊那市内の6軒の蕎麦店のみで数量限定で提供されています。
赤い花咲く 高嶺ルビー
これらに加え、箕輪町の「赤そばの里」では、日本では珍しい赤い花の咲くソバ品種「高嶺ルビー2011」が栽培されています。赤い花が咲くヒマラヤ山麓のソバをもとに、日本でも栽培できるようにと品種改良を重ねて作られたのがこのソバです。

広大な畑一面に赤そばが咲き誇る様子は圧巻で、開花時期(9月下旬)には、県内外から多くの人が訪れます。
蕎麦が美味しいのはいつ?
前述のとおり、そばには「夏そば」と「秋そば」があり、収穫期が異なりますが、伊那谷で栽培されている多くは「秋そば」にあたり、秋(10月中下旬)に収穫作業が行われます。

このため、伊那谷で新蕎麦を味わえるのは11月頃からになります。香りや風味をしっかり味わうには新蕎麦の時期が一番という人もいれば、採ってからしばらく熟成させた冬の時期の方が美味しいという人もいるので好みはそれぞれですが、産地や品種を知り、時期ごとに代わる蕎麦の味を知るのも、楽しみ方の1つかもしれませんね。
松島憲一先生プロフィール

信州大学学術研究院農学系准教授。博士(農学)。専門は遺伝育種学でトウガラシやソバなどの遺伝資源探索、遺伝解析、品種改良および民族植物学的な研究を実施している。また、それら研究を通して地域活性化についての支援もしている、信州伝統野菜認定委員。





(取材:産直新聞社)