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#16 琥珀色の秘密 (大宮のぞみ)
どんぐりをコロコロと
蹴飛ばしながら
赤くなった紅葉をくぐると
中央アルプスを背に
大きな工場が見えた

「おーい」
遠くから呼ぶ声を見ると
もう工場の入り口に相方の姿が見える

琥珀色の液体の中に
とろりと満点の
養分がつまる養命酒

マルスウイスキーの工場では
大きな銅の蒸留器から
透明の液体が細いくだを登る
その後、木の樽で
琥珀色に染まっていく
その様はまるで生き物みたいだと
のんびりと眺める

工場見学は
秘密の箱を開くようだ
今まで丁寧に梱包されていた
作られる過程の秘密を
まるでリボンをほどくように
ひとつひとつ開いてゆく

秘密を開くは蜜の味。
琥珀色の液体に
舌鼓を打ちながらもわたしはその蜜まで堪能する

帰り道、秘密で
いっぱいになった頭と足を
ゆっくりと温泉で温めて
私たちの旅は
そこでようやく
ひとつ幕を下ろすのです
文・イラスト

大宮のぞみ

イラストレーター 
長野県駒ヶ根市生まれ
外国語大学スペイン語学科卒、
マドリード留学を経て
2011年に駒ヶ根市にUターン。
2人の子供を育てながら
伊那谷の美しさに囲まれて日々を暮らしています