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#20 楽しい舞台(のぞみるき)
今日は田楽座の舞台。はじめて見るそれはどんなものだろうと、舞台に慣れない私は緊張していた。

反して周りの観客たちはニコニコしてる。みんな慣れているのかなと思った。初見で一人で来るなんてもしかして私だけ?と思うと、余計に身が硬くなる。

さぁいよいよ始まるぞ!という時に、そうだと思って鞄の中から鉛筆とメモ帳を取り出した。このイラスト制作のために、舞台の様子をスケッチしておこうと思った。

思いつきのそれは、途中で「失敗だったかも」と思う。舞台は活気があり、客席でも音楽に合わせて手拍子をしたり、体を揺らしながら見る人がたくさんいた。

その中で猫背になって、黙々と スケッチする私。演者さんから見て私は異様すぎるのではと心配になった。

でもそんな心配は他所に、演者さんたちはキラキラと輝いていた。隣の席で座ってる人も、独自の振り付けでリズムにのってる。会場には一体感があった。私はスケッチをつづけた。

いちばん若手だという女性の笑顔に、目がいった。口角がキュッとあがっていて、美しい。

今度は髪を刈り上げてる女性の舞の手が、美しいと思った。

座長の笛の指づかいも、魅入るものがあった。

全体を見ていると、「楽しそうだな」と感じる動きなのに、スケッチしながら見ていると、手先や足先、目尻や口角など、細部の美しさに目がとまる。

ふわっと自然体で踊っているようなのに、指先や毛先にまで意識があるのではと思うくらい、集中力を感じた。

だんだん「負けてられないぞ」という気分になり、スケッチする手ものってくる。動いてる人物を描くのはかんたんじゃなかったけど、写真を撮るように「ここだ」と思うシーンをひとつひとつ描いていった。

終わる頃には疲れで呼吸が乱れていた。もうこれ以上は描けないなと思い、最後の演目では私もリズムに揺れながら、リラックスして観た。

田楽座の舞台は楽しかった。客席との一体感があり、あたたかい気持ちになれる。でもそれでい て、美しかった。どれくらい鍛錬すればあんなに自然に踊れるのか、私には想像できない。ただすごいとしか言えない。

そんな「感嘆」を込めて、今回は絵を描きたいと思った。舞台を観れてよかった。今度は鉛筆を置いて、楽しみたい。
イラスト・文

のぞみるき
滋賀県生まれ。絵の先生だった母の影響で、京都精華大の芸術科へ入学。卒業後、お絵描きワークショップ「あなたとわたしのスケッチ会」を企画。絵を通した場作りを行っています。