みんなの体験記
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無農薬・低農薬の原料米を育てる 日本酒蔵元主催の「草取り援農の会」体験レポート
合資会社 宮島酒店
信州の風土に根差した酒造り
宮島酒店(伊那市荒井)
創業明治44年、伊那市荒井に蔵を構える宮島酒店は、昭和40年代全国に先駆けて防腐剤無添加酒を開発し特許を取得。「美味と安心」を理念に、信州の風土に根ざした酒造りを続けています。
信濃錦
酒の仕込みに使用するのは、全て地元契約農家が栽培した無農薬・低農薬栽培の酒造好適米「美山錦」「金紋錦」「山恵錦」「コシヒカリ」。田植えや草取り、稲刈りには、例年、全国各地からこだわりの酒屋さんや日本酒ファンが集まり汗を流します。米農家―蔵元―販売店―消費者の「顔の見える」生産体制が、宮島酒店の安心で安全な酒造りの源であり、「護られし國・伊那谷」に人々を呼び寄せる力を生み出しています。

雨の多い6月、無農薬栽培だからこそ元気に生えてくる水田の雑草を、人の手で除去する作業、「草取り援農の会」に参加してきました。
「草取り援農の会」
「草取り援農の会」は、宮島酒店が進めるサスティナブルな農業を体感できる催し。実際に契約農家さんの田んぼを訪れ農体験ができる初夏の恒例行事です。
「安心・安全な酒米造りはうちが進めている酒造りの一番の源です。原材料が生産される現場を体感してもらうと同時に大変な部分を感じていただければ」と宮島さん。
例年、宮島酒店のスタッフや杜氏のほか、地元の酒販店、加工・山岳・観光・行政などの分野から参加があります。
無農薬栽培は雑草との戦い
今回伺ったのは飯島町の契約農家 唐澤美昭さんの田んぼ。中央アルプスを水源とする中田切川からの一番水が入る棚田の最上部にあり、他の圃場で使用した農薬の影響を受けない無農薬栽培にはうってつけの場所です。約1ヘクタールの圃場で「美山錦」「金紋錦」を栽培しています。

かつて飯島町では、有機・無農薬でのコメの栽培が盛んに行われていたといいます。唐澤さんの所属する農協の「特別栽培米部会」も、15年くらい前までは20軒を超える農家さんが在籍していたそうですが、農薬に頼らない栽培方法は収量も慣行栽培の6~7割程度、さらに除草などの手間ひまもかかることから、会員の高齢化とともに会員が減り現在では唐澤さんを含む3軒になってしまいました。
田んぼの除草は根気のいる大変な作業で、この作業が苦で農業自体をやめてしまった農家さんも少なくないといいます。
この田んぼを管理する契約農家の唐澤美昭さん
「1年のうち、この草の管理が一番大変な作業。いくら機械があったとしても大変です。一人じゃとりきれんし、皆さんが来てくれてかなり助かっています」と唐澤さんは微笑みます。農業の担い手が減り遊休農地が増える今、こうした取り組みが地域農業を守る一つの形となっています。
稲も雑草も生き物も。無農薬の田んぼはにぎやか
田んぼの除草では「田ぐるま」と呼ばれる手押しの農機具が活躍します。稲を植えた方向に沿って押して歩き土を掻き起こすことで草の根が定着するのを抑えます。機械が入れられない稲の株間は人の手で丁寧に除草していきます。
「オモダカ」は、三つ葉が特徴的でしっかりと根を張る雑草
「オモダカ」は根についているイモ(種)ごと取り除くのがポイント。これが残っているとまたすぐに生えてきてしまうそう
稲の株間に生える雑草。クログアイ・ヒエなど
軍手にびっしりとついた黒いもの!これ、水田に生える雑草の一つ「ヒエ」の種なんだそうです。農業は「雑草との追いかけっこだ」という話にも納得してしまいます。
オタマジャクシ・アメンボ・ゲンゴロウなどさまざまな生き物にも出逢えました。

「家の生簀のメダカを川に放すと、田んぼに入って元気に泳いでいるよ」と唐澤さん。農薬を使わない田んぼがどれだけ健康で安全かを証明する、ほっこりするようなエピソードも聞かせてもらいました。

水・風・生き物……自然界のさまざまな音が聞こえくる穏やかな農の時間。
初めは、和気あいあいと作業していた参加者も作業が進むにつれ黙々と草取りに没頭し、汗を流しました。
水の管理方法も違う!雑草を増やさないための知恵「深水管理」
無農薬・低農薬の田んぼは、稲を育て草を生やさないための水の管理が基本なのだそうです。
「『深水管理』は文字通り水を深めに管理する方法。草が水の中に浸かっていると温度も上がらないし酸素もないので伸びてこないんだよね。これを浅くしちゃうと、草が水面より上に出るのでどんどん光も浴びて伸びてしまう。深くしすぎると今度は田んぼ自体の温度が上がらなくなってしまって稲の生育が悪くなってしまう。その辺のバランスが難しい」と唐澤さん。
さらに、「田んぼにも性格があって、水もちのいい田んぼもあったり、どうしても水が抜けちゃう田んぼもあったり、田んぼごとに管理は変えています」とのこと。「米づくり」とか「田んぼの仕事」とか、普通にそういう言葉を使って話していますが、実はそれが、農家さんの長年の知恵や経験に支えられているのだと実感しました。
宮島酒店の酒造りは地域づくりそのもの
参加者のみなさんにも話を聞きました。

宮田村でジャム工房 狐の香りを営む溝口茉美香さんは「『信濃錦』を使ったジャムをつくりたい。無農薬で原材料を作っている方の努力などに触れる貴重な機会、とても勉強になった」と話します。茉美香さんと一緒に参加した妹の零香さんは「無農薬の田んぼには生き物がたくさんいて楽しかった」と話します。
宮島酒店の酒「斬九郎」の文字が入ったオリジナルTシャツが素敵!
川でどろを落とす参加者
伊那市の酒販店 いたや酒店の中村さんは「毎年参加しています。自然の力で育った米で醸す酒は力強い酒になる」、伊那市 上伊那広域連合の下平さんは「生産の現場を実際に体験し、伊那谷の物語を語れたら」と参加者がそれぞれの立場から思いを語ってくれました。
こうした「参加型」の農業を実践する宮島酒店の酒造りは地域づくりそのものです。伊那谷の風土・人が手間暇をかけて醸される酒には、伊那谷を愛しここで暮らす人々の温もりが映し出されています。
SDGsへの取り組み サスティナブル(持続可能な)農業
率先して草取りを黙々とこなす、宮島さん
「『安全で美味しい酒を造り』は、現在国連が提唱するSDGsの方向性に添ったものだと思っています」。蔵元の宮島敏さんはこうおっしゃいます。
伊那谷は、上流部で農薬や化学物質に汚染されていない清冽な栽培用水を確保できる貴重な水源地域です、中央アルプスや南アルプスで降った雨が、長い年月を経て湧き出す水源や、山々から流れ下る清冽な川筋が山際のあちらこちらにあり、その水を使った環境負荷の少ない農法が取り入れ易い場所です。
「古の昔から、人々は山を守ることで水源を護り、この水を引いて田畑を潤して様々な作物をつくり、それと共存する昆虫・魚・鳥・動物などを護ってきたのです。この営みを継承することは、SDGsの中の【6.水系維持】【15.陸の豊かさ・生物多様性維持】に直結します。うちは小さな酒蔵ですが、酒造りを通してこうした持続可能な農業への取り組みが全国各地に広がってくれたら良いですね」と自身の思いを語ります。
午後は爽やかな青空が広がりました。田んぼで汗を流すのは気持ちいい
水系や生態系との共存する無農薬・無化学肥料のコメ作りが、実は、現代世界の最先端のテーマと結びついている…そんなことを考えながら「田の草取り」に集中していると、何だかとても豊かな気持ちになるのは私だけではないと思います。この田んぼのお米でできた日本酒は、きっと、美味しいでしょうね。楽しみです。
お土産に昨年採れたお米で造った「信濃錦」のあま酒をいただいきました。家に帰ってからも農作業の思い出が蘇りよりいっそう美味しく感じられます。
あなたも「草取り援農の会」に参加しませんか?
◎参加の方法はこちら
https://miyajima.net/kusatori/

◆合資会社 宮島酒店
〒396-0025 長野県伊那市荒井3629番地1
TEL 0265-78-3008
FAX 0265-78-9492
Email saketen@miyajima.net

宮島酒店公式サイト 電子ブック「土着の蔵」 

営業時間 午前9時~午後5時
休業日 土曜日・日曜日 および 祝日
 12月30日~1月4日の6日間(年末年始休業)
6月第1土曜日より5日間(リフレッシュ休業)
7日間程度の盆休業(盆休業)
但し、11月~2月の繁忙期は営業する土曜日もございます。詳しくはお電話などでお問い合わせ下さい。

◎伊那谷の美しい風景がオンラインで観られる宮島酒店の「電子巻物」。
ぜひご覧ください! 電子巻物


*この記事は、令和2年6に制作をし、令和6年3月に一部内容の見直しをしたものです。
みんなの体験記ライター
投稿者上島
年代30代
趣味温泉・料理・ねこが好き
自己紹介伊那谷生まれ。Uターン。 田舎の子育ては楽しい。アクティブに遊べる美しい自然と、おいしくて楽しい食・農体験がいっぱい。日々を癒やしてくれる温泉が選ぶほどあるのもうれしい。そんな故郷 伊那谷の魅力を綴っていけたらと思います。