みんなの体験記
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薪を担いで駆け上がれ!ミッションクリア後に待つ絶景
中央アルプス 西駒ケ岳
毎年9月初旬の週末に行われる、一風変わった山岳レース「西駒(にしこま)んボッカ」に出走してみました。
このレースは、伊那市の鳩吹公園をスタートし、中央アルプス最北部に位置する山小屋「西駒山荘」をゴールとしています。特筆すべきは、その内容。参加者全員に、山小屋で使用する生活物資を届ける「歩荷(ぼっか)」を課しているのです!

2013年の西駒山荘建て替え工事に合わせて、建材となるレンガを歩荷して運ぼうと始まったこの大会。今回(令和元年大会)は西駒山荘で使用する薪を参加者が担ぎ上げます。
山に登るだけでも疲労困憊(ぱい)になるのにさらに薪を背負いタイムを競うなんて想像もできませんでしたが「面白そう!」ただこの気持ちだけで参加を決めました。
歩荷するレース。15キロの部にエントリー!
2013年から始まったこの西駒んボッカは、2016年の第4回目までは西駒山荘内に敷くレンガを歩荷していたようですが、2017年からは小屋内で暖をとるための薪に変更になりました。カテゴリーも2種類あり、3kgの部と15kgの部があります。
私のモットーが「苦しみあっての充実感」なのであえて辛いであろう15キロの部に迷わずエントリーしました。

西駒山荘までのコースを簡単に説明します。スタートとなる芝生の広場が美しい鳩吹公園からロードを約5km上り、桂小場(かつらこば)登山口からは本格的な登山道を木漏れ日の中、激坂・木の階段・岩場等を乗り越えてゴールの西駒山荘へ。全長11.6km、標高差1,750mの山岳コースになります。
桂小場からの登山道は駒ヶ岳ロープウェイが架設される以前は伊那市側から西駒ケ岳(木曽駒ヶ岳)に通ずる主要な登山道だった歴史もあり、このクラシックルートもレースにインパクトを与えています。
レース前日から楽しめる
レース自体は1日ですが、大会日程は土日の2日間あり、レース前日の土曜日は、鳩吹公園で受付・レースの説明・薪の受け取り・BBQパーティがおこなわれます(*令和5年度は、前夜祭はありません)。
その後希望者は芝生の広場でテントを張り宿泊。2日目日曜日が、レース本番です。
まず悩むのが、受け取った薪をゴールまでどう運ぶのか・どう背負うのか?ということ。考えた結果、背負子(しょいこ)を購入し薪をラップでぐるぐる巻きに括り付けて背負う作戦にしました。周りを見渡せば、大きなザックに薪を詰め込む人もいて、各々戦略があり興味が尽きません。
また、薪の他に大会側が指定した必携装備(レインウェアや防寒着、水や行動中の食料など)も持たなければなりませんので薪15kg+装備品約5kgでおおよそ20kgの荷物となりました。
肉・酒・星空
印象深かったのは前日のBBQパーティ。伊那谷の美しい星空の下、大会運営スタッフが肉・野菜をこれでもかと焼いてくれました。また、伊那谷にはいくつもの酒蔵があり日本酒の飲み比べもできました。(飲み過ぎると次の日に影響が…でも飲みたいですよね)
苦しい。でも楽しい!
レース当日は素晴らしい好天、体調も良く、「全力を尽くす」と誓います。

AM6:30一斉スタート。長く感じるのか、短いのか、苦しいのは百も承知の1日が始まりました。
スタート直後から3kgの部の選手にどんどん抜かれていきますが、ロードを飛ばし過ぎたら後半持たないため、ここはマイペースで進みます。小黒川沿いのロードをひたすら上がっていく途中、「小黒川渓谷キャンプ場」の横を通ると、薪を担いで走っている私達にキャンパーの皆さんが声援を送ってくれました。やはり声援の声をいただくと、苦悶の表情も一瞬和らぎ、力が湧いてきます、感謝の気持ちを胸にさらに奮起します。
ほどなくして桂小場登山口に到着。ここまで約半分、まだ半分かもう半分かと困惑しながら本格登山のスタートです。

つづら折りに続く山道、急坂もありますが整備が行き届いていて登りやすく道に迷うこともないでしょう。途中天然水が湧き出る水場が2箇所あり、火照った身体・カラカラの喉に染み渡ります。「水ってうまい!」
大樽(おおだる)避難小屋を過ぎた辺りで標高2,000mを超え、周りの木々も変化してきました。更にここからが急坂の連続、頑張り所。途中何人もの選手に会うのですが、「競争相手」というより同じ目的を持った「同志」という気持ちが強いのでしょう、互いに声を掛け合い励まし合いながら進みます。こうした、非日常が味わえるのも山岳レースや山の魅力なのでしょう。

樹林帯の登山道を抜け、標高約2,600m迄来ると稜線に出ました。南アルプス・八ヶ岳・遠くには北アルプス等、それまで見えなかった景色が現れます。その景色を立ち止まって見入ってしまい、レース中だということも一瞬忘れてしまいました。この稜線に出ればゴールの西駒山荘まではあと僅か、滑る岩に気を付けながら最後の力を振り絞りゴールゲートに倒れ込む様にフィニッシュ!「やっとゴールだ、薪を下せる」。この達成感はなかなか味わえないと思います。
ゴールの西駒山荘では、大会委員長であり登山が趣味でもある伊那市の白鳥孝市長が1人1人を迎えてくれました(*白鳥市長は、常にゴールにいる訳ではありません)。私のタイムは3時間ちょうどでした。
ゴール後に選手に振舞われる特製の味噌汁が、疲れた身体に染み渡ります。
ミッションクリア後に見た絶景
薪を担ぎ上げるというミッションをクリアし達成感に浸りながら、西駒山荘からの景色の素晴らしさに感動します。稜線で見えた景色に加え、御嶽山(おんたけさん)・西駒山荘から続く中央アルプスの稜線と、山好きにはたまらないロケーションです。西駒山荘の周辺には高山植物の女王とも言われるコマクサの群生地がありました。厳しい環境で生き抜き、7月頃には花を咲かせます。
素晴らしい景色を堪能したら、薪を置いて軽くなった身体で下山。鳩吹公園に戻ります。まだまだ登ってくる選手に道を譲りつつ(登山では下りの方が上りの方に道を譲るマナーがあります)エールを送り無事鳩吹公園に到着。
戻ってきた選手には、具だくさんの豚汁と伊那谷のお米で握ったおにぎりを振舞われました(*令和5年度は、豚汁はありますがおにぎりはありません)。とても美味しくてご厚意でおかわりもいただきました。
表彰式になり、トップのタイムを聞いてびっくり!
15kgの部:2時間28分、3kgの部:1時間59分とのこと。
桂小場から西駒山荘の登山標準コースタイムが約5時間ですので鳩吹公園からのロード区間を足しても驚異的なスピードで登っていることがわかります(どんな身体でしょう…)。
その後抽選会もあり、私は簡易的なBBQグリルが当たりました。大半の選手に景品が当たる振舞いぶりも、多くの地元企業の協賛あってのことなんじゃないかと思いました。

苦しみを乗り越えての充実感。私にとって西駒んボッカはかけがえのない体験でした。絶景を堪能しに、ぜひ伊那谷へお越しください。

【関連記事】特集「中央アルプス将棊頭山 西駒んボッカと聖職の碑」
【問い合わせ先】
西駒んボッカ
主催者 西駒こまくさ会
伊那市高遠町勝間217 伊那市観光株式会社内
TEL:090-2660-0244(西駒山荘) HP:https://www.sportsentry.ne.jp/event/t/90864
*この記事は、令和3年9月に取材をし、令和5年8月に一部を更新したものです。
みんなの体験記ライター
投稿者マモサ
年代40代・男性
趣味登山、トレイルランニング、マラソン、時々アップルパイ作り
自己紹介生まれも育ちも伊那谷で40数年。自然が豊かで四季折々素晴らしい景色や農産物の有り難みに感謝。この素晴らしい環境を子ども達の世代やもっと先に残し伝える事が務めと思っております。