2020年11月22日、伊那市や信濃毎日新聞社などが主催するイベント「高遠城下石仏ウォーク」が行われました。正直なところ、私自身は高遠の「石工(いしく)」や「石仏」について深い知識を持ち合わせていませんでしたが、「学んでみたい」という好奇心と、スタンプラリーに心ひかれ、市内に住む女性2人を誘って参加をすることに。今回は、そんなイベントの模様をお届けします。
高遠城下石仏ウォークって、どんなイベント?
今年初めて開催された高遠城下石仏ウォークは、伊那市の高遠城址公園を起点にチェックポイントを歩いて巡るウォーキングイベントです。各チェックポイントにはイベントオリジナルのスタンプが設置され、参加者は、伊那市美篶(みすず)にある手製本を手掛ける「美篶堂」制作のオリジナル御集印帳や台紙を手にスタンプ集めを楽しみながら、高遠石工が手掛けた石造物の数々に触れることができます。
チェックポイントは、スタート&ゴールの高遠城址公園、桂泉院(けいせんいん)、峰山寺(ほうざんじ)、高遠町歴史博物館、二十二夜様(にじゅうにやさま)、建福寺(けんぷくじ)、香福寺(こうふくじ)、的場の十王仏(まとばのじゅうおうぶつ)の8箇所。地元高遠出身の高校生も知らない場所があったほど、通な穴場スポットが設定されていました。また、3箇所に休憩所が設置され、高遠棒ほうじ茶の提供やお菓子・お土産などの販売も。仙醸(せんじょう)蔵では石仏解説が行われるなど、より深く石仏を学びたい人への企画も用意されていました。
見応え、歩き応えがあり充実した約7.5kmの旅
高遠城下石仏ウォークの当日は、私たちのような地元の住民から県外のウォーキングクラブの団体まで、約390名もの人々が参加していました。朝8時から受付が始まり、検温、消毒、参加申し込みを完了したら、スタッフの方から地図と御集印帳またはスタンプ用の台紙を受け取り、いよいよ出発です。
スタートである高遠城址公園で、記念すべき1個目のスタンプを押印。このイベントのために用意されたというオリジナルスタンプはとても精緻(せいち)な作りをしていて、「全部集めたい!」という気持ちが大いに掻き立てられます。
各スポットを巡る順番は自由なのですが、地図に歩きやすい順番が記されていたので、私たちはその順番通りに歩みを進めてみることに。
名工・守屋貞治作の准胝観音菩薩
最初に訪れたのは、高遠城址を見下ろす高台に建ち、境内に祀られた石仏を参拝することができる名刹、桂泉院です。お寺の石段の両脇には、高遠の名工・守屋貞治(もりやさだじ)作の准胝(じゅんてい)観音菩薩と延命地蔵がありました。准胝観音菩薩の円形光背の中に納められている12本の手など、隅々まで繊細に表現されていて、守屋貞治の技術の高さに圧倒されました。次に向かったのは峰山寺。ここは、高遠藩主だった鳥居家の菩提寺なのだそう。
峰山寺からは高遠町歴史博物館を目指して進みます。道中にあった、高遠湖に向かって延びる石畳の細い坂道は、とても風情があり旅気分を味わえました。
高遠藩主・保科正之と生母・お静の方の石像
高遠町歴史博物館の庭園にあったのは、高遠藩主・保科正之(ほしなまさゆき)と生母・お静の方の石像です。石仏は平成21年に建てられたもので、とても綺麗な状態で保たれていました。この町の人々の、保科正之公を慕う想いが込められているのでしょう。ここからは三峰川沿いをしばらく歩き、二十二夜様を目指します。二十二夜様の近くに休憩所の仲町駐車場があったので、高遠棒ほうじ茶をいただきひと休みしてから、保科正之公の菩提寺である建福寺へ。
佉羅陀山(きゃらだせん)地蔵菩薩
建福寺では、「高遠石工研究センター」の事務局長である熊谷友幸さんから直々に、延命地蔵菩薩の解説をしていただきました。私たちのような石仏ビギナーにとっては、とてもありがたいおもてなしです。熊谷さんは、背丈ほどある守屋貞治作の佉羅陀山地蔵菩薩に光を当てながら、この石仏の造りの特徴について、丁寧に教えてくださいました。また「石仏をめぐる小さな旅をとおして、日常のなかにも感動があることをみなさんに知っていただきたい」と話されていたことも、印象に残っています。建福寺の次は、高遠最古の古刹である香福寺。そして高遠スケッチ街道を進み、最後のチェックポイント、的場の十王仏へ。
的場の十王仏
「人は死後、生前に犯した罪によって冥土(めいど)で10人の王に裁かれる」という、江戸中期以降に広まった「十王信仰」が祀られている十王仏。その背景とは裏腹に、他の石仏と比べて小さなサイズで、可愛らしい印象を覚えました。
高遠の歴史とおもてなしに、地域への愛着が倍増!
制限時間の13時30分までに、スタンプをすべて集めることができた私たち。高遠城址公園へ戻ると、スタッフの方々が「お疲れ様でした」とねぎらいの言葉をかけてくださいました。自ら台紙に完歩証を押して、スタンプラリー完了です。
完歩の記念品としていただいたのは、イベントオリジナル手ぬぐいと、信濃毎日新聞社が当日制作したイベントの記事でした。当日の写真や参加者のコメントが記事内に反映されていて、プロの仕事のスピード感に脱帽!
このイベントへの参加を通して、高遠の歴史の一端に触れられたこと、訪れたことがなかった場所へ足を運べたことが、大きな収穫だったと感じています。また、受付や休憩所などで街の方々から温かなおもてなしを受けて、高遠への愛着がさらに深まりました。これからも四季を通して、「石仏」を切り口とした高遠の小さな旅を楽しんでいきたいと思います。