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伊那谷の大自然が生み出すウイスキー 本坊酒造 マルス信州蒸溜所
中央アルプスの麓、宮田村を流れる太田切川のすぐ横に、マルス信州蒸溜所はあります。長野県内で唯一ウイスキーが造られている(2021年2月現在)蒸溜所です。

所長を務める折田浩之さんに蒸溜所を案内していただきながら、ウイスキーの魅力や製造工程、こちらで造っているウイスキーの特徴についてお聞きしました!
伊那谷の大自然をその味にのせて
マルス信州蒸溜所がこの地に根をおろしたのは今から35年前、1985年のことです。ウイスキー造りに最適の場所を求めていくつもの地域を見て回った結果、何よりもここ宮田村の水が決め手となって、この地に蒸溜所を構えることとなったそうです。
「地下120メートルの井戸を掘って、中央アルプスの伏流水を使っています。地下を流れるやわらかい軟水が、美味しいウイスキー造りにとても適していたんです」と折田さんが教えてくれました。

また水の他にも、空気の良さや、夏暑く、冬寒いというメリハリのある気候環境も、ウイスキー造りには重要な条件だったそうです。
「ウイスキーの原酒製造は、1週間もあればできてしまうものなんです。長いのは、そこから樽で熟成させる期間。最低でも3年は要します。この熟成させる期間に、どのような環境下にあるかが、ウイスキーの味に大きな影響を与えます」

ジャパニーズウイスキーは、スコッチ、アメリカン、アイリッシュ、カナディアンと並んで世界5大ウイスキーに数えられるほど高い評価を受けています。この要因として、四季があって1年を通じて変化がある日本の気候環境が挙げられるのだそうです。こうした環境が、樽の中で熟成されるウイスキーの味に変化をもたらすそうですが、科学的にはどのような作用が働いて味の変化が生まれるか、まだまだ解明されていないのだとか。面白いですね。
「ここに限らず、どこで造られるウイスキーにおいても、自然風土が与える影響はとても大きいです。なので、ここマルス信州蒸溜所で造るウイスキーには、宮田村の冷涼で引き締まった空気感や、信州の大自然をその味に表現させたいと思っています」とその思いを教えてくれました。

蒸溜所からは、中央アルプスや南アルプスの雄大な稜線が望めます。こうした美しい自然が、ここで造られるウイスキーの美味しさを造り出すと思うと、なんだかそれだけでとてもわくわくします。
製造工程
ウイスキーの製造方法は、簡単に言うと以下の通り。

1 原料である二条大麦の浸麦→発芽→乾燥
…乾燥させて発芽の進行を止めたものを麦芽(モルト)と呼びます。

2 粉砕
…乾燥した麦芽を粉砕機(モルトミル)で粉砕します。

3 仕込み
…粉砕麦芽と温水を混ぜ合わせ、撹拌します。この工程で麦芽中に含まれる酵素の働きにより、デンプンが糖に分解され、甘い麦汁が出来上がります。

4 発酵
…甘い麦汁に酵母を加えることで、アルコール発酵が始まります。約4日間の発酵によって麦汁の糖はアルコールと炭酸ガスに分解され、ウイスキー特有の香りを含んだアルコール度数7%前後のモロミになります。

5 蒸留
…ウイスキーの蒸留は2回行われます。モロミを初溜釜しょりゅうがまで蒸留し、アルコール度数約20%の溜液とし、さらに再溜釜で蒸留し、アルコール度数約70%のニューポットと呼ばれる無色透明のウイスキー原酒となります。

6 貯蔵・熟成
…加水してアルコール度数を60%前後に下げた原酒を樽に詰めて長期間貯蔵・熟成します。
初溜釜と再溜釜。水とアルコールの沸点の違いを利用して蒸留する。下ではちょうど、スティルマンと呼ばれる職人が、再溜液のカット(再溜液の最初と最後の部分をカットする)作業をおこなっていた
ウイスキーのロマン 人の手だけでは造れない
マルス信州蒸溜所のウイスキー製造における製法の特徴についても教えてもらいました。

「発酵させる際のタンクは、通常ステンレス製か木製、どちらか1つで造られる場合が多いですが、ここでは両方を使っています」と折田さん。別々に発酵させたものを、将来的にブレンドさせることで、2つの魅力を併せ持ったウイスキーが出来るのだそうです。
2種類の発酵タンク
また、熟成の際に、数多くの種類の樽を使用しているのも特徴の1つ。大きさや材質が異なるもの、もともとワインの熟成に使われていた樽、ビールの発酵・熟成に使われていた樽など、バリエーション豊かな樽を使用することで、熟成に変化がもたらされ、味にも個性が出るとのこと。
「原酒が同じでも、熟成環境が違えば全く異なる味になる。人の手だけでは造れない。環境に委ねて、どんな味になるかは何年も経たないとわからないというのは、ロマンがありますよね」と折田さんは楽しそうに語ってくれました。

「熟成後のウイスキーがどのように仕上がったか検証できるのは何年も先。そこが、日本酒やワイン、焼酎などと、ウイスキーの一番の違いであり、魅力だと思っています」
ウイスキーを熟成させている樽庫の中も見せていただきました。写真に収まり切らないほど、数多く、多様な樽が並びます。
製造してもすぐには販売できず、熟成させるための時間も場所も要する――ウイスキー造りがいかに息の長い仕事かということが改めて実感されます。
こちら、写真左が蒸留されたばかりの無色透明なウイスキー原酒、右が3年間熟成させ、琥珀色に変化したもの。樽の成分を吸収し、樽を通じて呼吸しながら熟成する中で、毎年2~3%のウイスキーが蒸発し、失われます。この蒸発した分は「エンジェルズ・シェア(=天使の分け前)」と呼ばれているのだとか。

現在(2021年2月)、新型コロナウイルスの影響により、樽庫の中は見学できませんが、それ以外の工程については、予約なしでいつでも工場見学をすることができます(10名以上の工場見学、バーの利用は受付を行っていません)。
バーで過ごすくつろぎ時間
工場の隣には、こちらで造っているウイスキーを楽しめるバーとショップがあります。1歩入るとこの通り、内装、置いてあるテーブルや椅子、照明、どれをとってもこだわりが見てとれる上質な空間です。
バーの奥には薪ストーブの火が揺れていました。ウイスキーを片手に薪ストーブの火を眺めるなんて、想像するだけで素敵な時間が過ごせそうです。

なお、運転者の方には、珈琲などのメニューもあります。こちらの珈琲も、豆をウイスキーの熟成に使った樽で貯蔵して香りをつけてから挽いたという特別なもの。なんともいえない独特な香りと後味に、ウイスキーではなく、珈琲だけ飲みに来る人がいるというのも納得です。
ウイスキーの広がり
飲酒人口の減少が叫ばれる中でも、近年のハイボール人気から、ウイスキーに興味を持つ人が増えるなどのうれしい変化もあるそうです。
現在長野県内でウイスキーを造っているのはここだけですが、新たに製造免許をとる企業が出る動きもあるとのことで、「そういった広がりがあるのはうれしいことだと感じます。皆で品質を高め合って、切磋琢磨していけたら」と前向きな思いを話してくれました。

普段お酒を飲まない人ならなおのこと、ウイスキーと聞くと馴染みがないという人も多いかと思いますが、ここで造られるウイスキーは、伊那谷の自然が造り出した味なのだ、と聞くと一度飲んでみたくなりませんか?人の手だけでは造れない、自然環境など複雑な要素が絡み合って生み出されるウイスキーの奥深さ、面白さをぜひ五感で味わってみてください!
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