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山ぶどう由来の赤ワイン、「紫輝」と共に歩む宮田村
宮田村産のヤマソービニオンを原料にした「紫輝」(画像提供:宮田村)
“紫色に輝く”と書いて「紫輝(しき)」。宮田村の大地で育った山ぶどう由来の品種「ヤマソービニオン」を100%原料に使った赤ワインの名前です。

2000年頃、宮田村を代表する特産品を作ろうと、原料となるぶどう栽培が手探りで始まりました。その後、地域に根差した醸造会社と二人三脚で取り組み、今では紫輝は誰もが認める村の看板商品に。「1次産業(農産物生産)×2次産業(食品加工)×3次産業(サービス)=6次産業化」の立派なモデルとなっています。

天竜川西岸のなだらかな斜面に広がる原料ぶどうの栽培地は、日照量が多く水はけも良いため、ぶどう作りには理想的な土地柄とされています。まずはぶどうの作り手を訪ねました。
真冬も続く、ぶどうの管理
ぶどうの木を剪定する細田誠二さん
真冬の冷たい風が吹き抜ける圃場に、黙々とぶどうの木の剪定をする男性の姿がありました。

紫輝の原料ぶどうを育てる宮田村山葡萄(ぶどう)栽培組合長の細田誠二(ほそだ・せいじ)さん(72歳)。郵便局を定年退職してから栽培を始め、今季で12年目になります。

農閑期の1月にもかかわらず、細田さんは畑で黙々と作業を進めます。すでに12月には仮剪定を済ませてあり、年が明けてからは仕上げの剪定をしています。

先輩から教わった「ぶどうは人の足音を聞いて育つ」という言葉を大切にしているそうで、冬場も天気のいい日は圃場に足を運び、ぶどうの世話をしています。
徹底した管理、品質追い求め
仮剪定で長めに残しておいた枝をさらに短く切る
現在、組合には6軒の農家が入っています。耕作面積は合わせて約3ヘクタール。日常的な管理はそれぞれに行いますが、ぶどうの品質をそろえるための統一したルールがあります。

たとえば、1本の枝にならせる房は2つと決めていて、余分な房は切り落とします。放っておけばより多くのぶどうを収穫できますが、その分品質が落ちてしまいます。つまりは、量より質を取るわけです。

ワインにする上で、ぶどうの糖度も大切な指標になります。組合が基準にしている糖度は、シャインマスカットにも匹敵する「20度以上」。収穫直前の9月には、全園で3度にわたる糖度調査を行い、基準に達していない圃場では収穫作業を始めません。

その管理の丁寧さは、生食用のぶどうを上回るほどです。細田さんは「全国いろんな園地を見てきたが、こんなに手入れしている所はなかった」と照れくさそうに教えてくれました。
宮田村とヤマソービニオンとの出会い
収穫期を迎えたヤマソービニオン(画像提供:宮田村)
紫輝の特徴は何と言っても、「ヤマソービニオン」という品種にあります。このぶどうは、国内に自生する「山ぶどう」に、赤ワインでは最も知名度が高い「カベルネ・ソーヴィニヨン」を交配した品種です。

宮田村がヤマソービニオンと出会ったのは1990年代後半のことでした。村の基幹産業である農業を生かして何か特産品を開発しようと、いわゆる「6次産業化」に向けて村が動き出したのです。

最初に目に留まったのが、古くから野山に自生していた山ぶどうでした。村出身の民俗学者・向山雅重(むかいやま・まさしげ)の随筆のタイトルだったこともあり、山ぶどうは村民にとって特別なじみ深い果実でした。

当時はワインブームの真っただ中。ワインの消費量も右肩上がりに増えていました。村独自の山ぶどうワインを作れないかと、山梨大学の山川祥秀(やまかわ・よしひで)教授に相談を持ち掛けたところ、紹介されたのが、教授が開発した新品種「ヤマソービニオン」でした。

ヤマソービニオンは、他の欧州系品種と比べると病気に強く裂果しにくいといった特徴があります。さらに、すでに農家の高齢化が始まっていた宮田村にとって、高所作業がないことや消毒回数が少ないことも利点となりました。

天竜川の西岸でなだらかな傾斜がある「駒ヶ原(こまがはら)」地域は、日照量が多く水はけが良いことから、果樹栽培の適地です。標高650~750メートルに位置し、朝晩の寒暖差が大きいため、品質の高い果実が取れます。

まずは1998年、50アールの農地に500本を植栽することから始めました。
生産者と醸造会社の二人三脚で
宮田村には、ワインやウイスキー作りを手掛ける醸造所があります。「本坊酒造マルス信州蒸溜所」です。
紫輝の醸造元の本坊酒造マルス信州蒸留所=宮田村
こちらでは、紫輝が誕生してから現在に至るまで、一貫して醸造を担っています。

同社によると、紫輝の特徴は、紫系の色素が強い鮮やかな色合いにあります。口に含むと、山ぶどうに由来する強くて荒々しいニュアンスが最初に感じられ、次にカベルネ・ソーヴィニヨンの持つ華やかなニュアンスが追いかけてきます。つまり紫輝は「一度で二度おいしいワイン」なのだと言います。

ワインはその年の気候によって味のバランスが変化するため、山ぶどうらしい酸味が印象的な年と、カベルネ・ソーヴィニヨンの持つ豊かな果実味が感じられる年とがあるそうです。

いいワインを作るために栽培組合とも連携していて、先に紹介した1本の枝に2房のぶどうをならせるといった細かな指導も同社が行っています。蒸留所にある売店責任者で、ソムリエ資格を持つ冨迫英昭(とみさこ・ひであき)さん(47歳)は、「こうした両者の連携があってこそ、いいワインが作り続けられる」と言います。

ぶどうの生産者とワインの醸造会社との二人三脚で20年来続いてきた宮田村の取り組みは、まさに「6次産業化のモデルケース」と言えそうです。
「山ぶどうの里」へ、村ぐるみで
2020年の「紫輝」(画像提供:宮田村)
「山ぶどうの里」をキーワードにした村ぐるみの取り組みは、ぶどう栽培のスタートと同時に始まりました。

宮田村では1998年、行政と農・商・工の連携を円滑に進めるため、「中央アルプス『山ぶどうの里』づくり推進会議」が発足しました。村長が会長となり、農業委員会、JA、栽培組合、商工会、本坊酒造の代表者のほか、山川教授もメンバーに加わりました。

紫輝という名前は、一般公募で決めました。「朝露に輝く紫の山ぶどうを表現した」というネーミングで、ワインの持つ特徴がうまく表現されています。
売店が入るビジター棟で紫輝を注ぐ冨迫英昭さん
2008年には、村主催の「ワインセミナー」が始まりました。農産物生産(1次産業)と食品加工(2次産業)とサービス(3次産業)を掛け合わせた「6次産業化」の総仕上げとして、村民自らがワインの魅力を伝えられるようになることが狙いです。

本坊酒造信州蒸留所で働く製造スタッフらが講師を担当。ソムリエの資格を持つ冨迫さんもその1人です。受講者は、1年目に「ベーシックコース」で基礎的な知識を学び、2年目は「ステップアップコース」で産地による味の違いなどを教わります。

圃場で収穫まで体験できる本格的な内容から、今では公民館の人気セミナーに。通算の修了者は140人以上いて、近年は村外からの参加者が増えているとのことです。
「ワインまつり」で紫輝を味わう
「ワインまつり」ではその年の初物の紫輝を味わえる(画像提供:宮田村)
宮田村では毎年「ワインまつり」を開催していて、その年に醸造した紫輝の赤ワインと、2016年に発売した紫輝の白ワインを併せて提供しています。白ワインはドイツで人気の品種「ミュラー・トゥルガウ」を原料としていて、会場では赤・白2種類の紫輝を飲み比べることができます。

20回目の節目となる2020年には初めて5月に開催する予定でしたが、あいにく新型コロナウイルスの影響で延期となってしまいました。

新緑の緑が映える初夏。宮田の四季が凝縮されたワインの味を、ぶどうが育ったその場所で楽しんでみてはいかがでしょうか。



【ワインまつりの問い合わせ先:宮田村産業振興推進室(☎0265・85・5864)】