特集
Special
  • トップ
  • 特集
  • 宮田村テロワール ~平沢畑のヤマ・ソービニオン物語~
宮田村テロワール ~平沢畑のヤマ・ソービニオン物語~
「いま、ぶとうの葉の紅葉が一番美しい時期ですよ」

11月中旬、アルプスの初冠雪が過ぎて、冬の気配を感じ始めた信州伊那谷の宮田村。標高600メートルを超える場所、赤く色付くヤマ・ソービニオンの畑を案内してくれたのは、この畑の持ち主である平沢秋人さん。

平沢さんは、「ワイン平沢畑」のラベルで、山ぶどう種とカベルネ・ソーヴィニヨン種の交配品種「ヤマ・ソービニオン」を栽培してきました。

ヤマ・ソービニオン100%使用ワイン「ヤマ・ソービニオン 平沢畑」は、知る人ぞ知る良ワインとして、愛好家のなかでじわじわと浸透。ソムリエの名誉称号である「マスターソムリエ」をもつ 高野豊さんが推奨するワインとなり、有名人をはじめ多くの人が平沢さんに会うために畑を訪れています。平沢さんが1人で栽培しているため収穫量は少なく、1年間のワインの生産量は約5000本。地元でもほとんど手にすることができない、稀少なワインです。今回は、その成り立ちの物語に迫ります。
宮田村の水と空気と土を使って何かできないだろうか
信州ワインというと、明治時代に始まった塩尻ワインが有名ですが、2013年に「信州ワインバレー構想」が策定され、現在は県内全域で注目度と生産量が高まっています。

長野県の自然条件はワイン栽培に適しており、実はワイン用ぶどうの生産量日本一。2002年には、特に味と品質が優れたワインなどを認定する日本初の制度として「長野県原産地呼称管理制度」が制定されました。

「ヤマソービニオン 平沢畑」のぶどう産地である宮田村では、2000年頃にワイン用のぶどう栽培を開始。

(詳しくは山ぶどう由来の赤ワイン、「紫輝」と共に歩む宮田村→https://www.inadanikankou.jp/special/page/id=1309

「宮田村の特産品を作ろう」。

そんな村内の動きに呼応して、当時13人程で組織された組合員の一人に、平沢さんも名を連ねました。

「宮田村を繁栄させたいという想いはありました。それに、減反政策が激しい頃でもあり、先祖からの土地を守りたいという気持ちもありましたね。宮田の水と空気と土を使って何かできないかなと思っていました」
平沢さんのぶどう畑からは美しい中央アルプスが見える
平沢畑がある天竜川西側の地は、日照量が多く水はけも良い風土で、ワイン造りに適していることがわかりました。村内にワインやウイスキー作りを手掛ける醸造所「本坊酒造マルス信州蒸溜所」があったことも、ワイン生産を可能にした大きな理由でした。

手探りで、仲間とともに切磋琢磨しながら始めたぶどう栽培。そんな平沢さんに、2006年、転機が訪れます。
平沢畑という銘柄が熟成していった年月
「私のぶどうを単独で使ったワインを作ることになりました。」

平沢さんのぶどうが、糖度が高く、香りがよく、ポリフェノールが多いという優れた品質が評価されてのことでした。

こうして2006年、「ヤマ・ソービニオン 平沢畑」が誕生したのです。

単独になり、プレッシャーもあったという平沢さん。本を読んで、独自で学びを深めてきました。それでも「先祖が残してくれた土地のおかげで、いいぶどうができる」と、土地への感謝も忘れません。
その思いは、平沢さんの畑の美しさにも表れています。整然と並んだトレリス(格子棚)、丁寧に剪定された木、短く刈り揃えられた雑草。畑を整えることも、大切なことだと感じているそうです。

「ワインの味が悪ければ天候のせいにしたくなるけれど、努力によって改善はできる。毎年毎年同じことをしていても、同じぶどうはできない。でも、それは私にとっては励みでした。『今年も美味しいですね』って、その一言をもらえたら、それだけでとても嬉しい」

ぶどう栽培の難しさ、ワインの評価の複雑さ。試行錯誤の上にできるものだからこそ、20年以上もぶどう栽培を続けてこられたのかもしれないと、平沢さんは語ります。
ぶどう畑は、仕事、暮らし、生き方そのもの
ぶどう栽培は、紅葉シーズンからスタート。

「きれいな紅葉で落葉して春を迎えれば、樹勢が充実していて、芽立ちがいい。4月下旬頃、ぷっくりでてきた新芽をかく。その年の新芽の出具合も慎重に観察します」

と、平沢さん。さらに、遅霜予防のためのあらゆる方策も欠かせません。

「山ぶどう系なので、樹勢が強く、ものすごく手がかかるんです。」と平沢さんがいうように、脇芽かきや枝の誘引など、地道な作業が続きます。

雨季に入ると、雨は雑菌が多いので、防菌予防に努力。7月の下旬にはぶどうの房が赤くなり始めます。「うちの場合、毎年鳥がたくさんくるんですよ。真夏の暑い時、大変な思いをして防鳥対策の網をはります。」

除草剤は一切使わないのがこだわり。木の下の草を刈るのも一苦労です。そんな一年を過ごすと、ようやく10月初旬の収穫を迎えます。
雪の日も、暑さ厳しい時も、一年中仕事が続くぶどう畑。面積は約4反(40アール)という広さです。一人で対峙している平沢さんには、苦労が多いのではないかと尋ねましたが、「私にしてみると、ぶどう畑にいくのは精神的にとてもいいんです。ほっとする。ぶどうの仕事をしながら、歌を歌う。それが一番楽しい。」

平沢さんにとってぶどう畑は、仕事、暮らし、生き方が重なっている場所で、それが健康の秘訣なのかもしれないと話してくれました。
伊那谷が誇る特産品として
平沢畑のぶどうは、4種類のタイプのワインに醸造されています。ノーマル、樽熟成、スパークリングワイン、辛口スパークリングワイン。現在醸造は、塩尻市の新進気鋭のワイナリー「サンサンワイナリー」が手がけています。

平沢さんは他にも、ヤマ・ソービニオンのジュースやジャム、にじますの燻製、スモークチーズ、田作りも作られていて、駒ケ岳サービスエリアなどで販売されています。

平沢さんの実直な性格と、丁寧な仕事によって生み出されたワインやおつまみは、まさに伊那谷が誇る食文化。それは、伊那谷の風土と人が組み合わさって生まれたここにしかないものです。
平沢畑
栽培地:長野県上伊那郡宮田村新田
醸造元:サンサンワイナリー
URL:https://sun-vision.or.jp/sunsunwinery/
【販売場所】イオン箕輪店をはじめ全国イオン店舗で取扱い。ほか、正木屋酒店(宮田村)、ワインショツプ マルマス(駒ヶ根市)、上藏(南箕輪村)など。