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世界が注目の「昆虫食」を知るなら伊那谷へ
「昆虫食の都」伊那谷の三大珍味!
「昆虫食」って知っていますか? 読んで字の如く、昆虫を食料として食するということです。伊那谷は、古くから日本で有数の「昆虫食」が根付いてきた地域。山国でタンパク質が手に入りにくかったことから「虫」を食べるようになったなどと言われています。

この「昆虫食」が、近年、世界中で大きな注目を集めています。きっかけとなったのは、2013年に国際連合食糧農業機関(FAO)が発表した「食用昆虫~食料と飼料の安全保障に向けた将来展望」と題した報告書です。この報告書では、世界の人口増加により近い将来深刻な食糧危機が訪れるであろうと予測しています。そこで、栄養価が高く、環境負荷の少ない昆虫食が、地球の危機を救う「次世代フード」として注目を集めているのです。こうした流れの中で、古くて新しい伊那谷の昆虫食文化は、いま大きくクローズアップされています。その魅力を探ってみましょう。
「昆虫食」――その見た目のインパクトから「口に入れるのはちょっと怖い……」「虫を食べるなんて」とネガティブな印象を持たれる方も多いかもしれません。伊那谷には、そんな人にこそ知ってほしい、おいしい昆虫食があるんです。

伊那谷の三大珍味「ざざ虫」「蜂の子」「イナゴ」は、各家庭や地域の人々の手によって大切に受け継がれてきた伝統食。伊那谷に来たらぜひ味わってほしい郷土の味です。

天竜川で捕れる「ざざ虫」は清流に住むカワゲラ、トビケラなど水生昆虫の幼虫で佃煮や揚げ物などにして食されます。蜂の子は、クロスズメバチなどの蜂の幼虫のこと。蜂の子を捕るためにクロスズメバチに紙などで印をつけ、そのハチを追って巣を見つける伝統技法「蜂追い」も行われています。また、捕った蜂の子は佃煮や炊き込みご飯などにして食しています。稲を食べる害虫とされる「イナゴ」は、農村地域では今も佃煮などにして食べられています。砂糖醤油で甘辛く煮付けた佃煮は、見た目からは想像もつかないおいしさで、栄養価も高く、素材の香ばしさや甘みを感じることもできる逸品です。

この他にも、伊那谷では、「さなぎ」や「ひび」と呼ばれる蚕のさなぎも、50年ほど前には、家庭の食卓で日常的に食べられていたそうで、前述の「伊那谷の三大珍味」と同様、現在でもスーパーの棚に並んでいる「食用昆虫」の一つです。

海のない長野県では、貴重なタンパク質の供給源として古くから「昆虫食」が暮らしの中に根付いていました。中でも伊那谷は、今でも昆虫食文化が色濃く残る地域として知られ、「昆虫食の都」と称賛する専門家もいるほどです。
持続可能な食生活の実現に向けて
交通網が発達し食が豊かになった現代では、わざわざ昆虫からタンパク質を摂取する必要はないかもしれません。しかしFAOは、世界の人口は2050年には現在の75億人から90億人まで増加し、世界中で10億の人々が慢性的な飢餓に陥ると指摘。2030年頃には、タンパク質の需要に対して供給が足りなくなると予測しています。食肉の需要が増える一方で、鶏・豚・牛など家畜は、その飼育・生産に多大なコストや環境負荷がかかることから、低コストで環境負荷の少ない「昆虫食」が見直されています。

今私たちは、地球環境や豊かな生態系を守り、安全で安心な食糧を確保する持続可能な食生活への改善が求められているのです。
昆虫食のメリット
では具体的に、昆虫食にはどんなメリットがあるのでしょうか。
1、豊富な栄養素

昆虫は、タンパク質が豊富。そのほかミネラル、良質の脂肪、必須アミノ酸など多様な栄養素を含む完全食とも言われています。また、個体に含む栄養を丸ごと摂取できることから、摂取効率が高い優れた食品とされ、国連も推奨しています。
2、生産コストが少なく 生産効率が高い

鶏・豚・牛など家畜を飼育するのには水や飼料など多大な生産コストがかかります。一方、昆虫の場合は、肉に比べ圧倒的に少ない量で済みます。
また、自然界の天然資源としていただくとすれば、生産コストがかからない上、無農薬・減農薬の農業が進めば、環境の保全・多様な生態系を守ることにも繋がります。
さらに、昆虫は少ない面積で飼育できることから、世界中のあらゆる場所、たとえば飢餓に苦しむ国でも食用昆虫が生産できることも期待されています。
3、環境負荷が少ない

FAOの報告によると、家畜の飼育にかかる、世界の温室効果ガス排出量(CO2換算)は全体の18%を占めているといいます。近年、地球温暖化は世界的に問題となっており、アンモニアとメタン、亜酸化窒素をはじめとする温室効果ガス排出量削減のための取り組みが求められています。肉の需要にあわせ生産を増やせば、環境破壊は進む一方です。こうした理由から、昆虫食文化が広まれば環境負荷も軽減されると言われています。
FAO が推奨する「昆虫食」への見直しは、国連が掲げるSDGs(持続可能な開発目標)の【2.飢餓をゼロに】【13.気候変動に具体的な対策を】【15.陸の豊かさも守ろう】とも重なります。

里山の自然と共存しながら暮らす伊那谷の暮らしが、世界のロールモデルとなる日も近いかもしれません。伊那谷の古くて新しい昆虫食文化を知り体感することで、世界が抱えるテーマについて考えるきっかけになればと思います。
伊那谷で昆虫食を味わう!
伊那谷の街には、昆虫食を味わえるお店がいくつもあります。

・伊那の幸 塚原信州珍味
伊那市上新田に店を構える「伊那の幸 塚原信州珍味」(1946年創業)では、昔ながらの製法を守りながら伊那谷の伝統の味を守り続けています。

・居酒屋「串正」
伊那市の居酒屋「串正」では、ざざ虫や蜂の子、イナゴを提供しています。メニューにも「伊那谷名物三大珍味」としてしっかりと記載されています。お酒のつまみにもぴったりです。

・産直市場グリーンファーム
伊那市西箕輪の「産直市場グリーンファーム」では、イナゴや蜂の子の佃煮のほか、運が良ければ蜂の子の元となるクロスズメバチを巣盤ごと販売する場面にも立ち会えます(10~11月上旬頃)。直売所ならではの風物詩です。

そのほか、スーパーや道の駅でも、お惣菜コーナーやお土産にもできる瓶詰めや缶詰めなどで販売しています。伊那谷を訪れたら、ぜひ味わってみてください。
参考資料
当該論文は以下のURLから入手可能
http://www.fao.org/3/i3253e/i3253e.pdf