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南アルプスの貴公子 東駒ヶ岳(甲斐駒ヶ岳)②
長野県伊那市と山梨県北杜市にまたがる東駒ヶ岳は、北沢峠を挟んで対峙する仙丈ヶ岳と共に、南アルプス北部山塊の中で特に際立った存在感を示しています。
南アルプスの貴公子 東駒ヶ岳(甲斐駒ヶ岳)①はこちらをご覧ください。
登る山
この山に登るルートは、前述の黒戸尾根ルートの他にもいくつかあります。上級者向けの鋸岳を経由するルートはかなりハードなのでここでは省略し、長野県側の北沢峠を起点とする二つのルートをご紹介します。
北沢峠より長衛小屋の脇を通って北沢川沿いに遡り駒津峰南側を登り詰める「仙水峠ルート」と、北沢峠こもれび山荘横から双児山を経て駒津峰に至る「双児山ルート」がそれにあたり、これら二つのルートは駒津峰で合流し、その後は東駒ヶ岳山頂を目指します。

仙水峠ルートは、駒津峰と栗沢山に挟まれた仙水峠まで、北沢峠より比較的なだらかに登り、そこから一気に駒津峰に上がるため、登りの途中でバテてしまう方が見かけられます。逆に下りに使った場合は、この急坂が膝への負担を大きくするとも言えます。とは言え、林の中を進む双児山ルートに比べ、ところどころで開ける眺望や大きな石や岩がゴロゴロ散乱しているゴーロ帯などの地形の変化が楽しめるため、健脚者にはお勧めのルートです。途中の水場は、長衛小屋と仙水小屋の前にあります。
長衛小屋
北沢川に沿って進む
仙水小屋
仙水峠のゴーロと摩利支天
駒津峰途中から望む栗沢山方面
双児山ルートは、樹林帯の中を九十九折(つづらおり)にて双児山に上り、さらにゆっくりと高度を上げて駒津峰に至ります。急な上り下りは少なく、足腰に自信の無い方にはお勧めですが、二児山を過ぎるまで眺めは余り期待できません。北沢峠こもれび山荘脇を出発すると途中に水場はありませんので、水は最初からしっかりと持参してください。
双児山ルートの登山口
双児山途中から望む北アルプス方面
双児山山頂
双児山から望む東駒ヶ岳
駒津峰の山頂には広場があり、ここで大休憩を取った後、東駒ヶ岳山頂を目指します。この山は東駒ヶ岳直下にあり、眼前に迫る東駒ヶ岳の雄大な姿を眺めるだけでも十分に山旅の満足感が得られるため、既にバテたと感じた場合は、無理をせず「ここまで」として下山されることをお勧めします。標高2,700mを超えるここから先は空気の薄さを実感し、さらに行動しづらくなり、場合によっては高山病となる危険性もあるからです。
駒津峰山頂
駒津峰を過ぎ暫くすると「六方石」という大岩があり、その先でルートが二つに分かれます。岩稜を頂上まで真っ直ぐ登る「直登ルート」と、雪山かのような白く細かな砂が広がっているザレザレの道をひたすら上る「巻道ルート」です。直登ルートは、力技が必要な場所もありますので、不慣れな方には巻道ルートをお勧めします。
六方石
直登ルートと巻道ルート
巻道ルートは、体力に合わせてゆっくりと進むことができますが、花崗岩が風化してできた白砂の山であるため、登りでは3歩進んで1歩下がるという感じとなります。また、下りでは滑って足を取られることもあり、意外と足腰に負担がかかります。出来る限りストックなどを使い、体への負担を軽減した行動をとるようにしてください。
直登ルート
巻道ルート
駒津峰より90分も登れば東駒ヶ岳山頂に到着します。尖った山頂からは遮るものの無い圧倒的な眺望が得られ、山頂にある駒ヶ嶽神社の祠に手を合わせつつ、大自然の素晴らしさを堪能することができるでしょう。
東駒ヶ岳山頂
東駒ヶ岳山頂の祠
東駒ヶ岳山頂からの眺望
巻道ルートの途中には摩利支天への枝道もあり、片道20分ほどの道のりのため、時間と体力に余裕のある方は足を延ばされると、また違った東駒ヶ岳の姿を眺めることができます。

北沢峠を出発して登頂し、北沢峠に戻るまでの標準コースタイムは約9時間です。
仙流荘発の朝一番の林道バスで北沢峠に入れば、北沢峠発の最終バスまでには下山でき、日帰り登山も可能です。また北沢峠周辺には幾つもの山小屋があり、長衛小屋の前にはテント場も設けられていますので、ご自身の体力に合わせてルートを選択し、決して無理をせず楽しい山旅を満喫してください。

今回ご紹介した全てのルートを網羅した私の山行記録をご案内しますので、参考としていただければ幸いです。
【ヤマレコ】https://www.yamareco.com/modules/yamareco/detail-525059.html

※2019年の台風19号、2020年の7月豪雨により、南アルプスの林道や登山道が壊滅的な被害を受け、2021年春現在、伊那市側からも、山梨県側からも林道バスなどを活用して北沢峠に向かう手段がありません。唯一、東駒ヶ岳に登るルートとして残されている山梨県側からの黒戸尾根ルートも中上級者向けのため、体力をつけた上で綿密な計画と慎重な行動を心がけてください。
眺める山
この山が山岳信仰の対象となり、また登る山としても人気を集めるのは、麓のみならず、どこから眺めても毅然とした端正な姿をしていることが要因であると考えられます。

伊那谷側からは、麓より鋸岳と仙丈ヶ岳の間に鋭く聳える姿を楽しむことができ、自家用車でアクセス可能な伊那市長谷の「鹿嶺高原」に上れば眼前に迫る雄大な姿を楽しむことができます。
鹿嶺高原から望む東駒ヶ岳と仙丈ヶ岳
【電子巻物】https://www.miyajima.net/ebook/panorama/019/

ややディープな話になりますが、同じ南アルプスの仙丈ヶ岳に登る「小仙丈尾根ルート」の途中、森林限界を超える六合目で一気に眺望が開けますが、その時第一番に目に飛び込んでくる東駒の姿には息をのみます。また、仙水峠の南に聳える栗沢山や早川尾根最高峰であるアサヨ峰からの眺めは圧倒的ですらあります。山好きの方は、ぜひ一度はご覧あれ。
仙丈ヶ岳中腹から望む東駒ヶ岳と鋸岳
栗沢山から望む東駒ヶ岳
アサヨ峰から望む東駒ヶ岳
さらに山梨県側からは、山麓から一気に立ち上がる姿を間近に眺めることもできます。
小淵沢高原から望む東駒ヶ岳と黒戸尾根
この山は、遠方からも直ぐそれと判る端正な姿をしており、南アルプスの山座同定(さんざどうてい)をする際の指標ともなっています。富士山と同様、「登る山」であると共に「眺める山」の筆頭格とも言えるでしょう。

私は伊那谷に生まれ、大学進学で上京した後、再び郷里に戻り約40年この地で暮らしてきました。その間に、晴れた日は毎日のように東駒ヶ岳を眺め、数えきれないほど東駒ヶ岳に登ってきています。

日本百名山どころか「日本十名山」とも言われるこの山の姿を楽しみに、登山をされる方もされない方も、是非伊那谷にお越しください。
(文・写真:宮島 敏)