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「日本一」のほたる祭り、上伊那の夏は辰野から
提供:辰野町観光協会
「日本一のホタルの里」を掲げる辰野町。ホタルの見頃となる6月上中旬には町中心部で「信州辰野ほたる祭り」が盛大に催されます。来場者数は約10万人に上るとされ、人口(約2万人)の5倍に当たるというので驚きです。

町を代表するホタルの観賞スポットは、祭りの会場から1キロほど離れた「松尾峡」。ゲンジボタルが生息しやすいようにと水路を張り巡らせた「辰野ほたる童謡公園」があり、夏の夜には無数のホタルが乱舞する幻想的な光景を楽しめます。

辰野町とホタルの歴史から、日本一とされるゆえん、絶好の観賞日和の見極め方まで、とことんご紹介します。
夏を告げる、辰野の「ほたる祭り」
提供:辰野町観光協会
辰野町の一大イベント「信州辰野ほたる祭り」は、ホタルの発生数のピークに合わせ、6月上中旬の約9日間開かれます。

商店街には屋台がずらりと並びます。一般的な夏祭りより早い時期に開く祭りとして地域に定着していて、「夏が始まる辰野から」が祭りのテーマになっています。

期間中、町最大のホタルの名所・松尾峡(辰野ほたる童謡公園)は人でごった返します。関東圏・中京圏・関西圏などからも観光客が訪れ、近年は外国人の姿も見られるそうです。

70回以上続く辰野ほたる祭りは、終戦後の1948(昭和23)年に始まりましたが、ホタル目当てにこの地に人が集まるようになったのは、もっと古くからのことでした。
ホタルの里、危機と復活の歴史
提供:辰野町観光協会
諏訪湖を起点として伊那谷を流れ下る天竜川。その豊かな水の恵みを受けて、かつては川沿いの至る所でホタルの群飛ぐんぴが見られたと言います。明治の終わり頃に鉄道が開通すると、遠方からも見物客が集まるようになりました。その中には商売のためにホタルを捕まえる人もいて、大正の中頃にはその数が激減してしまいました。

事態を重く見た住民たちが行動に出ました。それまでホタルを専用のかごに入れて観賞を楽しむのが一般的でしたが、地元の小学校教師が旗振り役となって家々に保護を呼び掛けました。ホタル捕りをやめさせるために、毎晩川辺でパトロール活動も実施。やがてホタルを守る機運が地域全体に広がり、なんとか危機は脱しました。

ところが、戦後の経済復興に伴い、天竜川の水質が悪化。再び深刻な事態に陥ります。原因は、工場や家庭からの排水などによる汚染でした。ホタルは天竜川本流から姿を消し、用水路での発生も次第にまばらになっていきました。

対策に動いたのが、辰野高校生物クラブです。勝野重美(かつの・しげみ)教諭の下、ゲンジボタルの生態を研究し、用水路に幼虫を放流する活動を数年来にわたって実施しました。町も、水質改善に向けて本腰を入れます。用水路にきれいな沢の水を入れたほか、全国で初となるホタル専用の人工水路を設置しました。

こうした積み重ねの結果、1975(昭和50)年、松尾峡で再びホタルの群飛が見られるようになりました。
町ぐるみで行われる保護活動
提供:辰野町観光協会
町ではこの歴史を教訓とし、ホタルの生息環境を守る活動に熱心に取り組んでいます。

活動の中心は「辰野ほたるの里まちづくり推進協議会」。町役場・公民館・商工会・観光協会・民間企業・住民組織などの代表による、ホタル保護のための組織です。

ほたる童謡公園の水路清掃は、ほたる祭りの前後に行います。幼虫がさなぎになって土の中にいる5月と、川岸のコケに卵が生みつけられている7月。ホタルの幼虫が川の中にいない時期を選んで実施しています。

ホタルの幼虫は「カワニナ」という巻貝の一種を食べます。そしてそのカワニナは、川底の石に付く「ケイソウ」を食べます。8月下旬から9月上旬にかけて行う草刈りは、水路に日光を当ててケイソウを生えやすくすることを狙っています。
ホタルの「観賞日和」の見極め方
提供:辰野町観光協会
辰野町でホタルが見られるようになるのは、5月末~6月頭から。その後、どんどん数を増やしていき、6月中旬にピークを迎えます。そして、6月末~7月頭には少なくなります。

たとえピークの時期でも、天候などの条件によって見え方に違いが出るそうです。そこで、ホタルの生態にも詳しい町観光係の木田耕一(きだ・こういち)さんに「観賞日和の見極め方」を聞きました。

ーホタルを観賞するのに最も適した日とはどんな日でしょうか。

蒸し暑い日の午後8時から午後9時ごろに多く見られます。風があまり吹いていなくて、月明かりのない日が特におすすめです。

ー年によって発生数に違いがあるそうですね

はい、そうです。2017年は特に発生数が多く、シーズン中に計20万匹以上目撃されました。少ない年でも万単位の数のホタルが乱舞しますので、来て見てもらえれば満足していただけるはずです。

ーホタルの発生状況に近年の傾向はありますか

地球温暖化の影響からか、ピークの時期が前倒しになる傾向が見られます。辰野町観光協会のホームページ https://www.town.tatsuno.lg.jp/kanko/では、松尾峡・辰野ほたる童謡公園における5月下旬~6月中の発生状況を公開しています。ぜひ参考にしてください。
正真正銘の「日本一」、ホタルに懸ける辰野町
提供:辰野町観光協会
辰野町は「日本一のホタルの里」をうたっています。自信を持ってそう言えるのは、ホタルのための献身的な活動が、町を挙げて行われているからです。

その最たる例が、ホタルの発生状況の調査活動です。先に記した通り、毎年5月下旬から6月にかけて、ホタルの発生数を1匹単位で公表しています。

一体どうやって数えているのかと担当者に尋ねると、「ベテランの調査員が担当区画に通い詰め、手持ちの数取器で『1、2、3…』とカウントしている」のだそう。目視で数えるため「生息数」ではなく、あくまで「目撃数」ですが、精度はかなりのものということです。

「これだけの規模で毎日カチカチやっている自治体は他にありません」。辰野町民がホタルに懸ける思いの強さを、町の職員が代弁してくれました。

【協力=辰野町産業振興課】
*この記事の情報は、令和6年1月に一部内容の見直しをしたものです。
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